ワクワクメール 広島スマイルが返ってきて一通、エキニシの高架下の立ち飲みで27歳の書店員と
広島に一泊の出張が決まった週末の夜、ワクワクメールのプロフ検索を広島にして、「本の話はしません」と書いた書店員のプロフにスマイルだけ残した。翌日の夜、返ってきてたので一通。水曜の19時半、エキニシの高架下の立ち飲みで、店の人に奥へ回されて合流した27歳のチサトと、同じ高架下の二軒目まで。
広島駅前の書店の文芸担当 PLACE広島
現場 HOOK現場感を
そのまま読む
「もう一軒」と言ったのは、俺のほうだった。広島駅の西の高架下、エキニシの立ち飲みの樽の前で、二杯目のグラスが底になったころ。チサトは「じゃあ、座れるとこ」と返してきた。もう一軒、を一回も繰り返さないで、座れるとこ、に言い換えて戻してくる。この人、最初から最後までずっとそうだったんだよ。
10月の下旬の水曜、広島に一泊の出張。相手はチサト、27歳で、広島駅前の書店で文芸の棚を持ってる。始まりは、出張が決まった週末の夜に俺が押した、ワクワクメールのスマイル。メールじゃなくて、スマイルのほうが先だった夜の話だわ。
週末の夜、本の話を書いてない書店員のプロフに、スマイルだけ残した
広島の出張が決まったのは、その前の週の木曜。先方が駅から歩ける場所で、水曜の昼から夕方まで打ち合わせ、終わったら一泊して木曜の昼に戻る。宿は会社が駅の近くに取ってくれた。広島を川と橋で区切って歩いた回に、駅の西の高架下の飲み屋街は、川を渡る前の一杯目の場所、と自分で入れてる。今回は打ち合わせの場所が駅のそばで、宿も駅のそば。川を渡らないで、高架下だけで一晩を組んでみよう、と思ったのは、その表を自分で読み返したからだわ。
で、土曜の夜。ワクワクメールを開いて、プロフ検索の住まいを広島にした。俺のスマホには出会い系が三つ入ってて、地方と出張を、ワクワクが世話になった場面の筆頭に挙げたレビューを書いた俺が、その場面にそのまま入った形だわ。開くのは出張の前の晩じゃなくて、出張が決まった週末の晩。木曜に決まって、土曜の夜に開く。だいたいこの間隔なんだよ。
プロフの文章は0Pなんで、上から順に読んでいった。何人目かで、自己紹介がこれだけの人がいた。
駅前の本屋で働いています。平日は閉店のあと、高架下で一杯飲んで帰ります。本の話はしません。
27歳。本屋。本の話はしません。この一行で止まった。本屋で働いてる人のプロフに、本の名前が一冊も出てこない。写真のほうは有料で、開いたら、本の背じゃなくて、高架下の提灯が斜めに写ってるやつだった。

本屋の人が本の話しないって、じゃあ何の話するんすか

それを水曜に聞きに行ったんだよ。笑
メールを送るのが普通の入り方なんだけど、この夜は書く言葉が無かった。本の話をしない人に、本の話を振るわけにもいかないし、高架下の提灯の写真に「いい提灯ですね」も無い。で、プロフのページの右上に「その他」っていうのがあって、そこを開くと「スマイルする」がある。押した。これはポイントが要らない。料金案内の行をひとつずつ10円に直して並べた早見表に、スマイルは料金案内の表に行が無くて、ヘルプのほうで0Pの五つに入ってる、と自分で書いてた。書いたのに、押したのはこの夜が最初だわ。
ただのスマイルでも、年齢確認が済んでる人しか押せない。18歳未満と高校生には、そのボタン自体が無い。向こうも同じ門を通ってる人、ってことになる。
押して、何も書かずに、閉じた。顔も知らない人に、挨拶だけ置いて帰る。土曜の夜の俺がやったのは、それだけなんだよな。
日曜の夜に返ってきてて、月曜と火曜で水曜の19時半まで
日曜の夜、洗った食器を伏せてから開いたら、チサトからスマイルが返ってきてた。向こうも、何も書いてない。挨拶に挨拶が返ってきただけで、まだ一文字も交わしてない状態。でも、知らない人の挨拶に返す、っていう一回ぶんの手間を、向こうがかけてくれてる。ここで初めて、5のほうを押した。

本の話はしません、のほうに乗ります。水曜の夜、広島にいます。閉店のあとの一杯、隣に立たせてもらえますか
日曜の22時すぎ。送って、歯を磨いて、寝た。
月曜の夜、開いたら一通来てた。
乗る人、おるんじゃね(笑)

水曜は閉店が早い日なんで、19時半には高架下におります

「乗ります」に「乗る人」。俺の言葉を、そのまま返さずに、人のほうに言い換えてる。このときは気づいてなかった。気づくのは水曜の樽の前だわ。

19時半で。高架下、店が多いですよね。どこに立ってればいいですか
月曜の夜に二通目。火曜の昼に返ってきた。
入口に樽が出とる店。私のほうが先に着くんで、東京の人が来る、って店の人に言っときます

東京の人って、顔で分かるかな(笑)

提灯の人に、顔で分かるかと聞かれてる。顔で分かるかな、に対しては、俺の側に言えることが何も無いんで、返さなかった。これで俺が二通、チサトが二通。水曜の19時半、入口に樽が出てる店、店の人に言っておく。決まったのはそこまでで、店の名前は最後まで聞いてない。
水曜の昼に広島に着いて、打ち合わせは17時半に終わった。宿は駅から歩いて数分のところで、荷物を置いてシャツを替えて、19時まで部屋でぼーっとしてた。ワクワクは開かなかった。開く用事が無い。着きました、の一通を送るかどうか考えて、店の人に言っておく、と言われてるんだから要らないだろ、と思って、やめた。
広島でワクワクを開いたのは、今回が初めてだわ。前に流川で、タオルの巻き方を直された夜も、Jメールで年上の人と会った出張も、この街でワクワクのほうは開いていない。
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高架下の樽の店は三軒あって、何も載ってない樽が当たりだった
19時20分に宿を出て、駅の西側へ回った。高架下は、線路の下の暗いところに小さい店が肩を寄せて並んでて、どの店も間口が狭い。提灯の色が店ごとに違う。水曜なのに、通路に出てる人の数が思ってたより多かった。スーツと、仕事着のまんまの人と、観光っぽい二人組。歩くと、隣の店の客と肘が触れそうになる距離。前に自分で表に入れた「距離が近い」の一行は、こういうことだったんだなと思いながら歩いた。
入口に樽が出てる店は、三軒あった。笑 一軒目は樽が植木鉢になってて違う。二軒目は樽の上に灰皿。三軒目の樽には何も載ってなくて、その店の前で立ち止まったら、中から店の人が顔を出した。エプロンをした女の人で、俺の顔を一回見て、言った。

奥なら空いとるよ。……あ、違う?

たぶん違わないです。樽、これで三軒目なんで

三軒目(笑) じゃあ奥。先に来とる人が、さっきから入口ばっか見とるけぇ
奥、と言われて中を見たら、カウンターじゃなくて壁に沿って樽のテーブルが並んでて、いちばん奥の樽に、グラスを持った人がこっちを見てた。白いシャツに、濃い色のカーディガン。髪は肩のところで切ってある。俺が店の人と話してるのを、笑わずに見てた。
顔で分かったみたいじゃん


分かられてない。樽の数で入っただけ。笑 どうも、アキです
チサトです。樽、三つあったでしょ


あった。植木鉢と灰皿で二軒はずした
ここの樽は、何も載せんのが決まりなんよ(笑)

樽の高さが、ちょうど肘が置ける高さ。向かい合うと、樽の直径ぶんしか離れてない。チサトのグラスはレモンサワーで、まだ減ってなかった。氷だけが少し小さくなってる。俺は生を頼んで、店の人が「つまみは適当に出すね」と言って、がんすっていう魚のすり身を揚げたやつが二枚、皿に載って出てきた。

頼んだまま待ってたの、閉店が早かったから?
棚を直して出たら、ちょうどこの時間になるんよ


毎日ここ?
閉店のあとに、ここだけ

毎日、に対して、ここだけ。頼んだまま待ってたの、に対して、ちょうどこの時間。俺が出した言葉が、一個も同じ形で戻ってこない。月曜のメールの「乗る人」を、ここで思い出した。
立ち飲みの距離で、俺の言葉が全部言い換えられて戻ってくる
がんすは、ソースじゃなくて何も付けずに食うやつだった。熱くて、中がふわっとしてて、二枚のうち一枚をチサトが指でつまんで、半分かじってから残りを俺の皿に戻した。本屋の人の手だな、と思った。指先が、紙でしか切れてない手。

文芸担当って、小説の棚?
名前のついた棚は、全部(笑)


名前のついた棚
作者の名前で並んどる棚。文庫も、単行本も


一日、何してんの。そこで
抜けたとこに、足す。それと、戻ってきたのを、戻す

何してんの、に、足す、戻す。本の名前は一冊も出てこない。プロフの一行は、嘘じゃなかったんだよ。

おすすめ、聞いていい?
仕事の棚は、仕事じゃけぇ(笑)


じゃあ休みの日は、何読んでんの
休みの日は、開かんのよ


開かないんだ
背表紙は見る。古本屋で

読む、に対して、開かない。開かない、に対して、背表紙は見る。この人の返事は、俺の言葉の隣の言葉で出来てる。言い返されてるわけでもないし、はぐらかされてるわけでもない。ちゃんと答えてるのに、俺の言った言葉だけが一回も使われない。

気づいてる? 俺の言った言葉、ぜんぶ別の言い方で返してくるの
そう?(笑)


そう。「毎日?」って聞いたら「ここだけ」だし
ここだけ、は本当のことなんよ


今もそうじゃん。「気づいてる?」に「そう?」で返した
……気づいてなかった(笑)

ここで初めて、気づいてる、の言葉がそのまま戻ってきた。返したあとに、自分で口を押さえてた。笑 隣の樽の二人組がこっちを見て、店の人も見た。そんなに大きい声じゃなかったはずなんだけどな。
二杯目は、チサトも生にした。俺のはそのまま、もう一杯。店の人が、今度は小さい皿に小いわしの刺身を出してきて、「これは醤油で」と言って戻っていった。

スマイル、なんで返してくれたの
何も書いてこん人、おらんかったんよ


書く言葉が無かっただけなんだけど
無いなら無いで、押すだけの人のほうが、読みやすい(笑)


読みやすい、って本屋の言い方だな
仕事の言葉、出た(笑)

何も書かずに挨拶だけ置いたのが、向こうには読みやすかったらしい。俺が書けなかった夜の話が、そのまま返事が来た理由になってる。変な話だわ。
通路の人は、20時を回ってもあんまり減らなかった。隣の店から笑い声が壁越しに来て、その壁がたぶん板一枚なんで、向こうの注文まで聞こえる。チサトがそっちを一回見て、こっちに戻した。

水曜でこれなんだ。土日どうなんの
水曜はまだ空いとるほう。試合のある日は、ここも赤いんよ

赤い、のほうには乗らなかった。前にこの街で、その赤い夜に振り回されてるからで、あの話をここで始めると、今夜が別の夜になる。チサトもそれ以上は言わなかった。言わないで、小いわしの皿を俺のほうに少し寄せた。
「もう一軒」は俺が言った。同じ高架下の、座れるカウンター
21時になる少し前、二杯目のグラスが二つとも底になった。俺はこのまま三杯目でもよかったんだけど、樽の前に立って1時間半、足よりも肘が疲れてた。それで言った。もう一軒。
じゃあ、座れるとこ


座れるとこ、この高架下にあんの
あるよ。椅子が七つだけの店


肘って。アキさん、立ち飲み何時間もつ人でしたっけ

1時間半で限界だった。笑 もう一軒、って言ったあとで、断られたらどうしようって思ったわ
勘定は俺が先に出した。チサトが鞄に手をかける前に店の人に言ったら、店の人が「東京の人、ごちそうさま」と言って、チサトが「東京の人て」と笑った。ここでも、俺の名前じゃなくて東京の人、なんだよな。
二軒目は、同じ高架下を線路に沿って少し歩いた先。本当に椅子が七つしかないカウンターの店で、五つ埋まってた。チサトが店の人と目を合わせると、端の客が一つ詰めてくれて、二つ空いた。カウンターは木で、肘を置くと木のほうが冷たい。壁に短冊が貼ってあって、酒の名前がいくつか。チサトが「広島のやつを一合、ぬるめで」と頼んで、ぐい呑みが二つ来た。

座った。笑 肘が生き返った
立ちっぱなしは、本屋も同じなんよ。座る店、知っとかんと


じゃあここは、チサトの座る店
座る店は、ここと、あとひとつ


あとひとつは
教えん(笑)

一軒目の樽の店は、閉店のあとに毎日。二軒目のカウンターは、座りたい日だけ。あとひとつは、教えない。この三段を、俺が一個ずつ聞き出すたびに、チサトはぐい呑みを一口ずつ減らしてた。
仕事の話は、ここで少しだけ本の名前に近づいた。近づいただけで、出てはこない。

戻ってきたのを戻す、って言ってたじゃん。戻ってくるって何
お客さんが棚から出して、別のとこに置いていくんよ。それを元の場所に


一日何冊くらい
数えたことない。でも、どこに置いてあったかで、誰が持ったか大体分かる


分かるの?
雑誌の上に置いてあるのは、立ち読みの人。レジの横に置いてあるのは、買うか迷ってやめた人


迷ってやめた本、全部見てんの。笑
見てるだけ。買ってもらえんかった本を、棚に戻すのが、いちばん長い仕事なんよ

買ってもらえなかった本を棚に戻す。それがいちばん長い仕事、と言った人のぐい呑みは、そのとき空だった。俺が注いだら、チサトが俺のにも注いで、一合がそれで無くなった。もう一合、は頼まなかった。
カウンターの下で、チサトの靴の先が俺の靴に当たって、どっちも引かなかった。カウンターの上では、チサトは注がれたぐい呑みに口をつけないで、木の上に置いたままにしてて、俺のほうは見てなかった。店の人は、こっちに背中を向けて、棚の瓶を並べ直してた。壁の短冊が、換気扇の風で一枚だけ揺れてた。
22時を回って、チサトが「明日も、朝から棚なんよ」と言った。帰る、の一言を使わないで、朝から棚、で帰るを伝えてくる。ここまで来ると、もう俺のほうが先に言い換えを探してた。笑
会計は二人で半分ずつ。チサトが先に自分のぶんをカウンターに置いて、俺が残りを置いた。店の人に「また」と言ったのはチサトで、俺は頭だけ下げた。
外に出ると、高架下の通路は一軒目のころより人が減ってて、提灯の色だけが同じだった。チサトは駅のほうへ、俺も宿が駅のそばだから、同じ方向。高架の柱の影を、二人でゆっくり歩いた。柱と柱のあいだで一回、足が止まった。柱と柱のあいだの数分は、押すだけで何も書かなかった土曜の夜と同じ扱いにする。読みやすいほうを選んだ。
私、ここから電車なんよ。一駅か二駅


一駅か二駅って、どっちなんだよ。笑
秘密(笑) 東京の人は


宿が、駅のすぐそこ。歩く
近いんじゃね。じゃあ、ここで

改札のほうへ、カーディガンが人の間に入っていった。俺は柱の影から出なかった。改札の手前で一回だけ、肩から下げた鞄の位置を直すのが見えた。それだけ見て、俺は宿へ曲がった。
部屋に戻って、シャツを脱いで、ベッドに座った。耳の中にまだ、隣の店の壁越しの注文の声が残ってた。
木曜の昼、新幹線に乗る前に、チサトからのメールは無かった
木曜は仕事が無い。宿で朝飯を食って、鞄を詰めて、11時に出た。駅の構内で土産を一つ買って、新幹線に乗る前にワクワクを開いたら、チサトからは何も来てなかった。別の街の誰かの足あとが一個付いてるだけ。
来てないまま、乗った。来てないことを、別に悪いほうには取らなかった。昨日の夜、「ここで」と言ってから改札まで一度もこっちを見なかった人が、翌日の昼に一通送ってくるほうが、あの人の形じゃない気がしたんだよ。
東京に戻って、木曜の夜。自分の部屋で、俺から一通送った。5のほう。

座れるとこ、ありがとう。肘のほうは直りました。あとひとつの店は、聞かないでおきます
送って、その夜は来なかった。金曜の朝、出かける前に開いたら、一行だけ入ってた。
聞かん人のほうが、次に連れていきやすい(笑)

聞かないでおきます、に対して、聞かん人。あとひとつの店、に対して、次に連れていきやすい。そのかわり、次、っていう俺の使ってない言葉が、向こうから一個足されてた。笑
土曜の夜のスマイルに、日曜の夜のスマイルが返ってこなければ、チサトと俺は一文字も交わさないまま終わってた。字を書かない挨拶が二回で、ここまで来てる。
- 運営20年超の老舗だから、ぽっと出のアプリより落ち着いて使える
- 無料ポイントの範囲で雰囲気を試せるから、合う合わないを確かめやすい
- 検索条件が細かくて、近場で条件の合う子を探しやすい
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
金曜の昼、来週の別の出張の宿を取った。行き先は広島じゃなくて、北のほう。宿のサイトの地図を少し引いて見たら、線路が二本走ってるだけで、その下に高架下の飲み屋街らしい影は無かった。
会った後の流れまで、次に読む。
アプリで会ったあとに失速しないように、連絡、待ち合わせ、次のデートへ繋がる記事を置いています。