平日の東京、退勤後2時間で会えた29歳
退勤直前に打ち合わせが飛んで、平日の夜が2時間だけ空いた。東京でディースリーを開いて、その日のうちに神保町の蕎麦屋で29歳のサヤカと乾杯するまでの話。マッチから店が決まる速さ、対応エリア、月2,900円〜の料金、二軒目の立ち飲みで彼女が黙った理由まで書いた。
印刷会社の校正PLACE東京
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先々週の水曜、18時ちょい前。あと五分でパソコン閉じて帰るぞ、ってタイミングで、19時から入ってた打ち合わせが飛んだ。先方の都合で来週に送らせてください、って二行のメールが来て、それで終わり。返信を打って、椅子の背もたれに体重を預けたら、手元に夜が余ってた。
といっても丸ごと空いたわけじゃない。翌朝が早い用があったから、動けるのは21時半まで。飲み直すには短いし、まっすぐ帰るには惜しい、っていう一番タチの悪い長さだった。で、その2時間で何をしてたかというと、神保町の蕎麦屋で29歳の校正の子と板わさをつついてた。マッチしたのが18時半、店が決まったのが19時過ぎ。自分でも順番がおかしいと思うわ。
会議が飛んで、水曜の夜が余った
ディースリー体験談の入口、東京での空気、会った後の動きまで。場面ごとの温度を拾いながら、アキの現場感をそのまま読む記事です。
ビルを出た瞬間の空気で、まだ夏が終わってないことを思い出した。日は落ちてるのに、アスファルトから下向きに温めてくる感じのやつ。冷えたロビーから出た拍子に眼鏡が一度曇って、拭いてもすぐ戻った。諦めて、レンズ越しにぼやけた通りをそのまま歩いた。
とりあえず何人かに声をかけた。二人は既読すらつかず、一人は「今から会食」、もう一人は「子ども寝かしつけ中」。三十代の平日の夜って、こんなに人が捕まらないのかと軽く傷ついた。最後にコウに投げたら、これも空振り。

今日むりっす。明日の資料まだ半分っす

了解。じゃあ俺、一人で神保町のほうふらつくわ。
神保町って書いたのは、オフィスからその方向に歩く癖があるだけの話で、この時点では店も決めてなかった。カレー屋の換気扇の匂いが通りに出てて、古本屋のワゴンにビニールがかかってて、要するにいつもの通り。歩きながら考えてたのは「一人で夜をつぶすなら、どこの立ち飲みが早く座れるか」だった。
この歳になると、平日の夜に予定が消えることって年に何回もない。消えた瞬間に別のやつが埋めにくるのが普通で、埋まらないまま歩いてる時間のほうが珍しい。おかげでこの日はやたら周りが目に入って、古本屋の店主が段ボールをたたむ音とか、路地から出てきた大学生っぽい集団が全員ノースリーブだったこととか、どうでもいい情報が頭に溜まっていった。
で、信号待ちで足が止まったときに、そういえばこれ使う日じゃんって思い出した。2時間しか空いてない夜のためにある機能が、ちょうど手元にあったわけで。
東京でディースリーを開いた理由
ディースリーってのは、前まで「Dine」って名前だったアプリ。ある朝アイコンごと名前が変わってて、押す指が一瞬迷ったやつだわ。中身の系譜はDineのままで、マッチの先に「まず会う」が置いてある設計。メッセを何週間も積む前に、日程と店の話から始まる。
で、そこに「今日これから会える人」を募集する機能が乗ってる。トゥナイト。俺は東京に居るとき、これをほとんど使ってこなかった。理由は単純で、東京だと予定が飛んでも代わりの予定が入るから。この夏の大阪出張、難波のホテルで部屋の用意がまだですって言われて、夜9時まで街に放り出された晩があって、あれが妙に頭に残ってた。その夜のことは大阪でトゥナイトだけ使って動いた話に書いてある。ちなみにその翌日と翌々日は天王寺のあたりを歩いてて、天王寺を歩いた記録はそのときのやつ。

大阪でやれたことが東京でやれない理由、よく考えたらないんだよな。
使ってこなかった理由はもうひとつあって、俺は「今日これから」の画面が単純に苦手だった。写真と条件を三十秒見て、押すか押さないかをその場で決める感じが、店の前で財布の中身を数えてるみたいで落ち着かない。ただこの日は、落ち着かないほうを選ぶ以外に夜の使い道がなかった。
エリアの話をひとつ。ディースリーは執筆時点で東京・大阪・福岡みたいな都市部で提供されてて、対応エリアは順次拡大予定になってる。飯の店とセットで動くアプリだから、店の選択肢が多い街から広がるのは筋が通ってる。俺は生活圏が東京なんで、この日に関しては何も困らなかった。
料金は、俺が登録画面を見た日で月2,900円〜のプランがあった。あと年齢確認。これは法律で決まってるやつで、身分証を出して通るまでは先に進めない場面が出る。18歳未満はそもそも登録できない。面倒に見えて、変なアカウントを最初に弾く仕組みでもあるんで、俺はあるほうが落ち着く。
歩きながら出した条件は雑もいいとこで、19時半から、神保町か九段下あたり、21時半まで。入力自体は指を数回動かして終わり。ここまでで信号ひとつぶん。
マッチから店が決まるまでが、思ってたより速い
ここから先は、俺がその日その画面で見た範囲の話。この手のアプリは画面も文言もどんどん変わるんで、細かい仕様は手元の表示を信じてくれ。
まず一覧が動く。さっき目に留めた子が、コンビニでアイスコーヒー買って出てきたら居なくなってる。通常のマッチングみたいに「いいね送って寝る」画面じゃなくて、今その画面を開いてる人同士で時間と場所を合わせにいく画面だった。落ち着いて選ぶ余裕はない。
俺がその日に押したのは四人。返ってきたのは一人。この打率が普通なのかどうかは、まだ回数が足りてないんで俺には分からん。ただ三人ぶんは何も起きずに静かに流れて、それはそれで平和だった。
返ってきたのがサヤカだった。29歳、印刷会社の校正。写真はどれも正面を向いてなかった。カメラのほうを向いてるカットがひとつもなくて、狙ってそうしてるのか、単に正面が苦手なだけなのかは分からん。プロフの文章は三行しかなかった。
中身は趣味の羅列でも自己紹介でもなくて、「平日のほうが動けます」「食べるのが速いです」「猫を飼えないので二枚目は実家の犬です」の三行だけ。二個目で笑って、三個目で押した。食べるのが速いって自分で書く人、俺は初めて見た。
19時半、神保町なら出られます


一通目がこれ。こっちの心の準備を待ってくれる気が一切なくて笑った。
そこからが速かった。日程を出し合う画面と、店の候補が出てくる画面が繋がってて、俺のやることは空いてる時間にマルをつけるのと、候補の中から店を選ぶことくらい。「どこ行きたい?」「なんでもいいよ」の無限ループが構造的に発生しない。幹事をアプリに外注してる感覚に近いわ。
候補に出てきた中から、すずらん通りを一本入ったとこの蕎麦屋を選んだ。理由は、時間のない日に予約の取り回しで揉めたくなかったのと、単純に俺が腹減ってたから。選んで送ったら三分で返事が来て、19時8分には確定してた。打ち合わせが飛んだのが18時前だから、1時間ちょっとで夜の予定が入れ替わったことになる。

えっ、1時間で? 俺、飲み会の日程調整だけで三日かかったことあるっすよ

それ三日かけて何が決まったんだよ。笑
予約に進むと、店によってはクレジットカードの登録を求められる場面がある。俺は前に一回そこで指が止まったクチで、案内を読んだら無断キャンセルを抑える設計だった。この日は登録済みだったんで、特に何も起きずに通過した。さっきの月2,900円〜も含めて、この辺の数字は俺が見た日の画面の話。
待ち合わせまで二十分あったんで、書店の前で立ち読みしながら汗を引かせた。冷房の効いた店内から出たり入ったりして、シャツが体温に戻るのを待つ、みたいな地味な時間。棚の前で考えてたのは、二十分後に始まる約束が二時間前まで一個も存在してなかったってことで、次に打ち合わせが飛んだ日も俺はたぶん同じ順番で指を動かす。
- マッチしてから会うまでが早い。日程調整も店の予約もアプリ側が段取りしてくれる
- 初回は公の飲食店で・本人確認必須の設計。ちゃんとしてる分、会う約束までが軽い
- 対応エリアは東京・大阪・福岡などの都市部(順次拡大中)。このへんで動くなら選択肢に入れていい
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
神保町の蕎麦屋で、サヤカと乾杯した
店の引き戸を開けたら、もう座ってた。奥から二番目のテーブルで、おしぼりを手のひらの上でたたみ直してた。髪は肩につくくらいで、耳にかけてる。半袖の白いシャツに、細いチェーンのネックレス。仕事帰りの人の格好そのままで、化粧を直した形跡もない。俺が「サヤカさんですか」って言ったら、顔を上げて、二秒くらい見てから頷いた。
あ、どうも。……写真より背、高いですね


写真で盛れてないほうを褒められる日が来るとは。笑
褒めてはない(笑)

この立ち上がりで、俺は「あ、これ喋る子だ」と思った。思ったんだけど、最初の十分は普通に噛み合わなかった。俺が仕事どこですかって聞いて、彼女が地名だけ答えて、そこで一回途切れる。ビール来て乾杯して、また途切れる。持ち時間が短いのに滑り出しでコケてる、っていう焦りが出てきて、俺のほうが喋りすぎた。

すいません、俺いま完全に間を埋めるために喋ってる。
分かる(笑)途中から目が泳いでた


見んなよ。笑
私、立ち上がりが遅いだけだから。もうちょい待って

この「もうちょい待って」で、こっちの肩の力が抜けた。板わさと、だし巻きと、揚げそばがき。冷房が効きすぎてるくらいの店で、氷の入ったグラスの外側がすぐ汗をかいて、コースターがふやけていく。
仕事の話になったのは、二杯目の途中。印刷会社で、校正をやってるらしい。刷る前の紙を読んで、間違いを見つける仕事。

それって、一日中ずっと文字読んでるってこと?
読んでるっていうか、見てる。読んじゃうと逆に見落とすの


……その違い、いま一ミリも分かってない顔してると思う。笑
いいの。分かられても困る(笑)

締め切り前は工場との時間の勝負になるって話も聞いた。刷りに回す時刻が決まってて、そこから逆算して赤を入れる。だから彼女の一週間は、前半と後半で人格が違うらしい。水曜は比較的まともな日、って言われて、この日に会えたのが偶然じゃなかったことを知った。
金曜の私は喋れないよ。目がもう死んでる


じゃあ今日の俺、けっこう当たり日じゃん。
まあ、当たりのほう(笑)

途中で隣のテーブルの四人組が上司の愚痴で盛り上がりだして、こっちの声が通らなくなった。二人とも自然に前のめりになって、テーブルの真ん中あたりで喋る形になる。顔の距離が縮むと話の中身が勝手に変わる。そこから仕事の話が終わって、住んでる街の話と、プロフの二枚目の犬の話になった。実家のやつで、名前を聞いたら「ゴマ」だった。ゴマって顔してた。
工場が岐阜にあるって聞いて、俺の反応が思ったより大きくなった。柳ケ瀬を夜に歩いたことがあるからで、アーケードのシャッターと、その奥に一軒だけ灯りが点いてるスナックの感じを今でも覚えてる。あの晩は結局、屋根の下から駅寄りの玉宮まで流れて、そっちの通りで一晩が終わった。その一晩ぶんは岐阜の柳ケ瀬を歩いた夜にまとめてある。
えー、柳ケ瀬行ったことあるんだ。出張で泊まると、あのへんしか開いてない


屋根の下はな。駅寄りの玉宮ってとこは、逆に22時から人が湧いてくるんだよ。
そっちは行ったことない。いつもホテルでビール飲んで終わり(笑)

で、この蕎麦屋で一回だけ、変な間があった。彼女が壁の品書きのほうを見たまま、俺の話に相槌を打たなくなった時間が、たぶん七、八秒。あれ、なんか地雷踏んだかと思って言葉を探してたら、普通に戻ってきて「ごめん、なんだっけ」って続きを聞かれた。この時点では意味が分からなかった。分かったのは二軒目。
会計は俺が6,800円ちょい払った。誘った側だから、そこは迷わなかった。彼女は財布を出しかけて、一回止めて、「じゃあ次は私」って言った。次があることになってて、俺は蕎麦つゆの器を持ったまま固まってた。
二軒目の立ち飲みで、サヤカが黙った
店を出たのが20時5分。外はまだ生ぬるくて、通りの向こうの信号が青になるのを待ちながら、二軒目どうするって話になった。座る店だと長くなるから、立ち飲みにした。靖国通りのほうに歩いて、間口が二メートルくらいしかない店の前で足が止まった。中が明るくて、金曜でもないのに満席寸前で、カウンターの端に二人ぶんだけ隙間があった。

お二人さん、そこ詰めてもらえれば入れます

入ります入ります。
せま(笑)鞄どこ置くの、これ

結局そこで1時間半いた。壁一面が黒板になってて、白と黄色のチョークでメニューがびっしり書いてある店。ハイボールと、レモンサワーと、タコの唐揚げと、名前を忘れた白身の刺身。距離は自動的に近くなって、腕がときどき当たる。
立ち飲みって、座る店と時間の進み方が違う。一杯ごとに区切りが来るし、隣の客が入れ替わるたびに空気が動くから、同じ90分でも密度が変わる。この夜も途中で右隣に来たおっさんが、俺たちを何年か連れ添った二人だと勘違いして話しかけてきた。サヤカが否定も肯定もしないで笑ってるのを、俺は横で黙って見てた。訂正するタイミングを二回逃して、三回目はもう探すのをやめた。
で、また来た。喋ってる途中でサヤカが黙って、視線が黒板の右上あたりで止まった。今度は十秒以上あった。

……ねえ。さっきから時々どっか行くじゃん。俺なんかやらかしてる?
ううん。全然


じゃあ何。気になるんだけど。
……言わない(笑)

言わないと言われると探すのが人間で、俺は黒板の右上を上から順に読んでいった。ドリンクの列。ハイボール、ウーロンハイ、緑茶ハイ、そして「レモンサーワー」。
サーワー。伸ばす場所が一個ずれてる。チョークで、たぶん急いで書いたやつ。

サーワー。
……気づいた(笑)


俺いま、さっき自分が頼んだやつを指差してるからな。堂々とサーワー飲んでたわ。
おいしそうだったよ、サーワー(笑)

意外だったのはここからで、彼女は店の人に言う気がまったくなかった。声をかけようとする素振りもないし、俺が「教えたら直すんじゃない?」って言っても、首を横に振っただけだった。
言わないよ。だって、ここ仕事じゃないもん


じゃあ、見つけたやつはどうしてんの。
黙って持って帰る(笑)

ちなみに蕎麦屋で黙った七秒のほうも聞いた。あっちは品書きの「合鴨」の字だったらしい。何がどうずれてたのかは教えてくれなかった。

それ、家でもやってんの。
んー、家は関係ないと思う(笑)


そこ否定するんだ。笑
する(笑)

理由を最後まで言わせなかったのは、こっちも途中でどうでもよくなったからだわ。目の前の子が、黒板の右上で一瞬いなくなって、また戻ってくる。それが起きるたびに俺が焦る、っていうその往復のほうが面白かった。

それ、翌日の俺に三回くらい話してたやつっすね

三回は言ってない。二回だわ。
店の後半は、腕が当たってるのを二人とも直さなくなった。彼女がグラスを置く位置がだんだんこっち寄りになって、俺の話に笑うタイミングで肩がぶつかる。21時半の縛りがなかったら、この流れのまま三軒目に行ってたし、その先も普通に有り得たと思ってる。止めたのは俺の翌朝の予定で、彼女の温度じゃない。いい雰囲気のまま時計を見る、っていう一番惜しいやつだわ。
21時35分に、彼女が自分から「そろそろだね」と言って、財布を出した。今度は止めなかった。二軒目は5,200円で、彼女がきっちり半分出した。
21時40分、神保町の交差点で
店を出て、大通りの交差点まで並んで歩いた。まだ空気が生ぬるくて、車のライトが路面のわずかな濡れを反射してた。信号は赤で、待ってる人が俺たちのほかに三人。
2時間って言ってたわりに、ちょっと過ぎてない?


十分オーバー。俺の責任だわ。
じゃあ次は最初から3時間で(笑)

連絡先は店を出るときに交換してた。土曜の昼にメッセージが来て、内容は、駅の券売機の上の掲示に見つけたやつの写真。何がずれてるのか俺には分からなくて、ヒントを三回もらって、それでも分からなかった。次に会うのは来週で、店は今度こっちが探すことになってる。
てかこのアプリ、名前変わったやつだよね


変わった変わった。ある朝いきなり。
アイコン変わってて、一回消したのかと思った(笑)

この会話のあと、名前が変わった週に俺が課金して一通り触ったときのことを送りつけた。ディースリーになって何が変わったかのレビューがそれで、料金とかカード登録の場面とか、細かいところはそっちに全部ある。
サヤカとはディースリーで会った。空いたのが2時間だけの平日にこうなったのは、俺の場合はこの日が初めてだわ。
- マッチしてから会うまでが早い。日程調整も店の予約もアプリ側が段取りしてくれる
- 初回は公の飲食店で・本人確認必須の設計。ちゃんとしてる分、会う約束までが軽い
- 対応エリアは東京・大阪・福岡などの都市部(順次拡大中)。このへんで動くなら選択肢に入れていい
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
話をその水曜の交差点に戻すと、信号が変わる直前、サヤカは鞄の持ち手を握り直して、「じゃ」と短く言った。俺も「じゃ」と返した。それだけの別れ方だったのに、なぜか二人とも一歩ぶん動くのが遅れた。青になって、後ろの三人に先に行かれて、サヤカは横断歩道の白いところだけを選んで、飛び石みたいに渡っていった。
この流れの次に読む記事。
読み終わったあとに動きやすいように、連絡、街での流し方、次の場づくりに近い記事を置いています。


