あべの側と新世界側、夜に歩いて分かった差
天王寺でナンパはできるのか。あべの側と新世界側を二晩かけて歩いた記録。同じ駅なのに南と北で人の流れも音もまるで別物だった。ハルカスの下で5秒で終わった1組から、立ち飲みで隣になった医療事務のチヒロと喋った1時間まで、そのまま書いた。
病院の医療事務PLACE東京
現場レポHOOK現場感を
そのまま読む
環状線の内回り、鶴橋を過ぎたあたりだった。隣に立ってた知らないおばちゃん二人の会話が、イヤホンの隙間から入ってきた。「うちな、ハルカス一回も登ったことないねん」「わかるわあ。地元の人間ほど登らへんのよ」「息子の友達が東京から来たとき、その子のほうが詳しかってん」「そういうもんやて」。二人でげらげら笑ってて、つられてこっちの口元もゆるんだ。イヤホンはそこで外した。かかってた曲より、おばちゃんの漫才のほうが強かったんだわ。
で、今日は天王寺の話。大阪のナンパスポットを順番に歩く遠征の途中で、駅の南のあべの側と、北西の新世界側を二晩かけて歩いた。大阪ぜんぶの見取り図は先にまとめてあるけど、書いたとき天王寺の欄だけ薄くて、それを埋めに来た形。電車で聞いた漫才は南も北も関係なかったけど、この街、南と北でまるっきり別物らしい。ハルカスの足元と通天閣の足元、あいだにあるのは公園の芝生一枚だけなのに、飲む店も喋る相手も入れ替わるって話は前から聞いてた。ほんとにそんな変わるもんかね、ってのを自分の足で確かめに行った話。
あべの側は、19時の歩道橋が一番濃い
天王寺ナンパの入口、東京での空気、会った後の動きまで。場面ごとの温度を拾いながら、アキの現場感をそのまま読む記事です。
天王寺の駅を南に出ると、でかい歩道橋が交差点をまるごと囲んでる。上がった瞬間、正面にハルカスの壁。首を反らしても上が視界に入り切らなくて、初日はしばらく首を痛めてた。笑。19時台の歩道橋は、仕事帰りと塾帰りと買い物帰りが全部混ざって流れてる。流れる方向もバラバラで、駅とモールと乗り換えの三方向に、人がほどけながら吸い込まれていく。
止まってる人が居るのは、歩道橋の欄干沿いだった。ハルカスを見上げて写真を撮ってる人がぽつぽつ。これは観光の人。あとは待ち合わせ組で、改札前じゃなくて歩道橋の上で待つのがこっちの流儀らしく、欄干にもたれて下の車の列を眺めてる人が何人も居た。声をかけるならこの止まってる帯なんだけど、写真の人は撮り終わると30秒で流れに戻る。待ち合わせの人は、そもそも俺が話しかける相手じゃない。
モールの閉店どきになると、紙袋を提げた帯がもう一本増える。あべの側は駅とモールと飲み屋が全部徒歩5分に収まってて、一日がこの一角で完結する作りになってる。飲み屋は駅の裏手とモールの周りに固まってて、信号待ちのあいだに「二軒目どうする」の相談が背中から聞こえてくる。ただ、その相談ごと信号が青になると流れていく。この側の人は、止まってるように見えて全員がまだ移動の途中なんだわ。
初日の20時台、あべの側で一人で入れそうな店を探してぐるっと回った。カウンターのある店は多いのに、どこも会社のグループで埋まってて、一人客は端っこに一人か二人。隣と喋る空気になる店は少なくて、俺は一杯だけで出た。

ハルカスって、上まで行くとなんかあるんすか

展望台。俺は下から見上げて首痛めただけで終わってる。電車で隣だったおばちゃん二人も、登ったことないって言ってた
21時を回るとモールの明かりが落ちて、歩道橋の上は駅方向の一方通行になる。22時台は信号待ち以外で止まる人がほぼ消えた。歩道橋の上から下の交差点を眺めてたら、前に品川で港南口と高輪口を歩き比べた夜とまったく同じ立ち方をしてる自分に気づいた。歩道橋の上って、どこの街でも同じことを考える場所らしい。考えてる途中で足が勝手に動いて、気づいたら手すりを離れて駅の北西に向かってた。
てんしばの芝生を渡ると、音の種類が変わる
駅の北西、天王寺公園のてんしば。夜の芝生は人がまばらで、犬の散歩とベンチの二人連れくらい。ここを歩いてる途中に、音が入れ替わる瞬間がある。背中側はモールのアナウンスと信号の電子音。正面から届いてくるのは、店のテレビの音と、誰かの笑い声と、換気扇の音。芝生のどこかに見えない境界線があって、そこを跨いだのが分かった。
動物園の入り口の脇を抜けて、ジャンジャン横丁に入る。通路が一気に狭くなって、すれ違うのに肩を斜めにする幅になる。串カツの油の匂い、店先の湯気、暖簾の下から見える客の背中。店がぜんぶ通路に向かって開いてるから、歩いてるだけで何十人ぶんの晩酌の横を通ることになる。
横丁は、通路ぜんぶがカウンターみたいなもんだった
中の空気は、観光の人と常連さんが半々で混ざってる。外国人の観光客が二度漬け禁止の張り紙を撮ってて、その二軒隣では常連のおっちゃんがテレビの野球に野次を飛ばしてる。将棋を指してるのが外から丸見えの店の前には人だかり。奥からはスマートボールの玉の音。あべの側で誰も止まってなかったのが嘘みたいに、こっちはどの店の前でも誰かが立ち止まってる。横丁を抜けると正面に通天閣で、その日の光は薄い青だった。下の広場では、見上げて写真を撮る人の輪がずっと崩れなかった。

新世界、俺まだテレビでしか見たことないっす

現地は匂いから来るよ。横丁に入った瞬間、串カツの油と出汁の匂いで腹が減る
時間の流れもあべの側と逆だった。21時を過ぎると観光の人がすっと減って、常連さんの比率が上がる。そのかわり店じまいは早めで、22時半を回ると横丁の明かりが端から間引かれていく。夜が深くなるほど吸い込む街と、夜が深くなるほど畳まれる街。天王寺は歩いて15分の中に両方あった。
声をかけた数と、返ってきた反応
二晩合わせて、あべの側で5組、新世界側で6組。あべの側は、止まってる人を見つけるまでが長い。歩道橋で写真を撮ってた人、信号待ちの二人組、モール前のベンチ。反応はだいたい丁寧で、笑って会釈、または「待ち合わせなんで」の即答。嫌な空気は一回もなかったかわりに、会話が二往復続いたのも一回だけだった。
5秒で終わった組の話もする。歩道橋の欄干でハルカスを撮ってた二人組に「それ、下からだと全部入らなくないですか」と聞いたら、片方が画面から目も上げずに「入ってます」。以上。撮れてたなら何よりだわ。

「入ってます」は強いっすね

強かった。会話の入り口が一文字も残ってなかったわ
新世界側は逆で、会話は始まる。串カツ屋の行列に並んでた二人組に「この並び、当たりの店なんですかね」と聞いたら「うちらも雰囲気で並んでます」と返ってきて、そこから二分くらい普通に喋れた。ただ、観光で来てる人は予定がみっちり詰まってる。このあと通天閣に上って、そのあとミナミに移動して、と行程が決まってて、会話の窓はあってもその先がない。地元の人に届いたのは6組のうち2組。数字は渋いけど、路上の空気はあべの側より段違いに柔らかかった。
二晩目、立ち飲みの前を三往復くらいしてたら、暖簾から出てきた常連のおっちゃんに捕まった。「にいちゃん、さっきから行ったり来たりしとるな」。図星すぎて笑ったら、「あの子らは観光や。今日中にミナミ行く子らやで、キリないで」と、頼んでもない解説までついてきた。通路に立ってただけの人に、俺の二晩を3秒で言い当てられてる。
悔しいけどおっちゃんの見立ては全部当たってて、あの一言を二晩ぶんに引き伸ばすとこの表になる。
| 時間帯 | あべの側の様子 | 新世界側の様子 |
|---|---|---|
| 18:30〜19:30 | 歩道橋が一番濃い。仕事帰りと塾帰りと買い物帰りが混流 | 観光ピークの名残。写真の人が多い |
| 19:30〜21:00 | モール閉店どきの帯。駅方向の流れが太くなる | 夕食どき。観光と常連が半々 |
| 21:00〜22:30 | 信号待ち以外で人が止まらない | 観光が減って常連率が上がる。一番喋れる時間 |
| 22:30〜 | 終電の速歩きとタクシー待ちだけ | 明かりが端から間引かれていく |
俺の足はこの表の裏をなぞってただけで、明るいうちはあべの側の歩道橋で止まってる人を探して、19時半を回ったらてんしばを渡る。21時からは横丁の立ち飲みに入って、明かりが落ち始めるころに切り上げて宿まで歩く。二晩ともこの順番で、逆回りは試してない。逆にすると、あべの側に着くころには誰も止まってないからだわ。
補足すると、金曜の新世界側だけは観光の人が22時を過ぎても減らない。雨の日は横丁がアーケードなんで、外の人がまとめて吸い込まれて通路の密度だけ上がる。あべの側の雨は、歩道橋から人が消えて終わりだった。
俺の線引きも一つだけ。新世界は酔いの回りが早い時間帯があって、呂律の怪しい人と、ツアーの集合っぽい動きをしてる人はなしにしてる。声をかけて一往復目で目線が合わないなら、そこで下がる。横丁は道が狭いぶん、下がるのも一歩で済む。
初日の帰り、宿に戻る前に横丁の出口の店で一杯だけ立って飲んだ。グラスを半分にしたところで、Jメールの通知が1件だけ鳴った。関西行きが決まったときに入れたやつで、登録の流れとか年齢確認の手順で思ったことはレビューのほうに分けて書いてる。歩き疲れた頭には、それくらいの静かさがちょうどよかった。
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18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
グラスが空く前に、次を決める人だった
この二晩でいちばんの出会いは、路上じゃなくてカウンターで起きた。二晩目の21時半、横丁の立ち飲み。中は肩が触れる密度で埋まってたんで、俺は暖簾の外、通路側の樽テーブルに一杯もらって立った。すぐ横に、同じく通路を向いて飲んでる女の人がいた。酎ハイがまだ三分の一残ってる。なのに首だけ店の中に向けて、壁の短冊を目で追いながら指を立ててた。「どて焼き、まだいけます?」って声が飛んで、奥から「ラス一やで」と返ってくる。「ほなそれと、次レモンで」。グラス、空いてない。注文の流れに淀みがなさすぎて、思わずそれを言った。

いま、まだ残ってるのに次いきましたよね
え、あかんかった?(笑)


いや、正解でした。どて焼き、最後の一皿だったし
やろ? ここのは早よ言わな消えんねん

名前はチヒロ、26。仕事は病院の医療事務で、職場も家もこの近くらしい。天王寺で一人飲みするならだいたいこの横丁で、あべの側の店は「あっちは会社の人と行くとこ」と一言で仕分けてた。飲むペースは俺の倍、決めるスピードは5倍くらいあった。
喋ってる途中で中の二人組が抜けて、店の人が顎で奥を指した。俺たちはグラスを持って、空いたカウンターの端に横並びで入った。中に入ると油の跳ねる音が近くて、少し声を張らないと届かない。チヒロは何も言わずに、届く声量にすっと切り替えてた。

頼み終わる前に、もう奥で焼き始めてるんですけど。店の手がチヒロさんと同じ速さで動いてるの、なんなんですか
病院の昼休み、45分しかないねん


それで?
食堂に並んでる間に決めとかな、食べる時間なくなるやん。あれが染みついてもうてん(笑)

医療事務の話が、聞いたことないのに全部想像のつく話ばっかりで面白かった。

窓口って、何を一番言われるんですか
「保険証忘れた、顔で分からん?」やな


顔で
分かるねんで? 分かるけどあかんねん(笑)

先生の手書きメモの話も出た。たまに暗号レベルの字があるらしい。

読めない字はどうするんですか
先生に聞きに行くやん? ほんだら先生も読まれへん時あんねん


本人が
本人が(笑)二人で首かしげてる

月初の話になると、グラスを置いてため息をついた。請求の締めが月初に固まってて、その一週間は事務の全員が無口になるらしい。
月初のうちら、たぶん院内の誰よりも喋ってへん


病院で一番静かな場所が事務室になるんだ
せやねん。先生より無口やねん(笑)

環状線のおばちゃんの話をしたら、食い気味に返ってきた。
うちもハルカス登ったことないで


地元の人、まじで誰も登ってないじゃん
遠足で行くとこでもないしなあ


このままだと俺が先に登っちゃいますよ、東京から来て
ええやん、登って感想教えて(笑)

そのあいだもチヒロの注文は止まらなくて、三杯目を頼んだ時点で俺の一杯目がまだ残ってた。
アキくん、飲むの遅ない?


味わってるんですよ
ほな次、うちが選んだるわ。もう頼んだけど


頼んでから言うの、順番おかしくないですか
言い終わる前に、大将が新しいグラスを俺の前に置いた。この店、注文の速い人の味方しかしない。
気づいたら1時間ちょっと経ってた。ここはキャッシュオンで、チヒロは小銭を出すのも早い。俺が財布を開くたびに、もう会計が終わってる。

次は俺が店決めときます。3秒で
ほんまに3秒やったら笑うわ(笑)

その流れで連絡先も交換した。チヒロはスマホを出すのも早くて、こっちが画面を開き終わる前には表示が済んでた。
で、次はあべの側? 新世界側?
この遠征の一晩目、ミナミで会った子はディースリーのトゥナイト経由だった。その夜の話は別で書いてる。天王寺の二晩は、その翌日と翌々日だわ。Jメールのほうで返事が来たのは、歩き始める前の夕方に一通だけだった。
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で、俺の答え。あべの側で腰を落ち着けた店は、二晩でゼロだった。入ったのは初日の一軒だけで、それも一杯で出てる。カウンターでそれを白状したら、チヒロは壁の短冊のほうを見たまま鼻で笑った。
そら座られへんて。あっちで一人で飲んでも、端っこで小さなってるだけやん


二晩歩いて出た答えが「北」だけって、雑すぎませんか
雑でええねん。うちもずっとそうやし

暖簾が一度めくれて、外の通路の音が入ってきた。油の跳ねる音と、まだ帰らない客の笑い声。壁の時計は22時半をとうに回ってて、横丁の明かりは端のほうから半分くらい落ちてた。カウンターの中から、ラストオーダーの声が短く飛んだ。

じゃあ俺は……えっと
レモン二つ!

俺が「えっと」を言い終わる前に、注文はもう通ってた。チヒロは残ってた酎ハイを一息で空にして、グラスをカウンターに戻すのまで俺より早かった。
東京の次の動きまで見る。
声をかけた後、どの街でどう流すか。場所選びと飲みの入口に近い記事を並べています。


