出張先の夜、掲示板で会えた28歳のフロントの子
岡山出張の2日目、取引先との会食が先方の都合で飛んで夜が丸ごと空いた。ホテルの部屋でJメールの掲示板を開いて、二行だけの投稿に送った文と、返事が来てから合流するまでの実際の時間。会ったのは駅の反対側のホテルでフロントをやってる28歳のリナ。
ビジネスホテルのフロントPLACE東京
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取引先との会食が、その日の夕方に飛んだ。先方の部長がインフルで寝込んだらしくて、丁寧なお詫びメールが一通来て終わり。おかげで岡山出張2日目の、19時から後ろが丸ごと空いた。
この夜、掲示板から2通送って、返ってきたのは1通だけ。会ったのは駅の反対側のビジネスホテルでフロントをやってる28歳のリナ。居酒屋を1軒、2時間ちょい飲んで、駅の西口で解散した。派手なことは何も起きてない。ただ「会食が飛んだ日の19時」から数えて、実際どのくらいで人と向かい合ってたのかを書いておきたい。
会食が飛んで、出張先の夜が丸ごと空いた
Jメール体験談の入口、東京での空気、会った後の動きまで。場面ごとの温度を拾いながら、アキの現場感をそのまま読む記事です。
岡山には水曜の昼に入って、金曜の昼の便で帰る予定だった。木曜の夜がメインの会食で、そこが飛んだ。
飛んだ連絡が来たのは、その日の17時半。日中の打ち合わせはとっくに終わってて、あとは会食に向かうだけだったから、急にやることが何もなくなった。ホテルに戻って、部屋に入って、ジャケットをハンガーにかけた時点で18時。
出張先のビジネスホテルの部屋って、なんであんなに時間の進みが遅いんだろうな。ベッドと机とユニットバスで終わりの部屋で、加湿器みたいな箱が微妙な音を立ててる。テレビをつけたら地方局の情報番組で、明日の最低気温をやってた。
このまま駅前でラーメン食って寝る、というのが一番ありそうな未来だった。実際、前の日の夜はそれをやってる。券売機で一番左上のボタンを押して、15分で出て、コンビニで水を買ってホテルに戻った。悪くはない。悪くはないんだけど、それを二晩続けると、何しに来たんだっけって気持ちになる。

会食飛んだのに、まだホテルの部屋にいるんすか

いや、飛んだの30分前だから。まだ気持ちが会食なんだわ。笑
出張先で夜が空くたびに、俺は毎回同じことで固まる。土地勘がないから店も分からんし、一人で入って様子見するにも、この街のどこが賑わってるのかを知らない。前に浜松で会食のあと一人になった夜は、結局駅の周りを歩き回っただけで終わった。歩数だけ稼いで宿に戻るやつ。
で、この日は歩く前にスマホを開いた。ベッドに横になって、天井を見ながら。
ホテルの部屋で大手アプリを開いて、10分で閉じた
最初に開いたのは、東京で普段使ってるマッチングアプリのほう。エリアを岡山に変えて、条件を適当に入れて検索した。
出てはくる。ちゃんと出てくるんだけど、俺がやりたいのは「今日の21時に会う」であって、これから相性の話をして三日後にお茶をする、じゃない。マッチしていいねの返事を待って、二、三往復してから日程を出して、っていう時計の進み方をしてる。仕組みがそうできてるんだから当たり前で、アプリが悪いわけじゃない。
あと、これは俺の使い方の範囲での話だけど、地方でいきなり開いた時の手応えは東京とは別物になる。母数が薄いというより、こっちが土地の空気を何も知らないまま画面だけ見てる状態が、たぶん一番よくない。10分スクロールして閉じた。

閉じた瞬間に、あ、こっちだわってなった

岡山で開くもんなんすね、それ
Jメール、正式にはミントC!Jメールってやつ。運営が福岡の会社で、西日本の地盤がそのまま残ってるタイプの老舗。俺は東京の普段使いでは開かないんだけど、西に来た時だけホーム画面から引っ張り出してくる。
このサービスの一番の特徴は、今どきのスワイプじゃなくて掲示板が現役で回ってること。エリアごとに「今日これから」「週末ごはん」みたいな募集がずらっと並ぶ、昔のケータイサイトの形式がそのまま生きてる。画面は古い。初めて開いた時に声出るくらい古い。ただ、出張で「今日の夜」を探してる人間には、この古い形式がやたら噛み合う。
料金はポイント制で、メールを送るたびに残高が減っていく方式。ポイントの単価は時期で動くから、この記事に出てくる金額は俺が使った時のやつな。俺が使い込んで良かった点とつらい点を全部並べたのはJメールを一通り使ったレビューのほう。業者の文面は、そっちで一回まとめて晒してある。
あと前提として、この手のサービスは18歳以上(高校生を除く)じゃないと使えない。登録のあとに年齢確認があって、それが通るまでは一通も送れない。逆に言うと、そこを済ませてないと出張先で思い立っても当日は動けないってことだわ。俺は最初の登録のときに免許を出して、それ以来ずっと通ったままになってる。
出張のたびに同じ悩み方をしてたのが嫌になって、去年地方で実際に動いたサービスを並べて比べた回も書いてる。あの時に「西は西のを開け」って自分で結論出しといて、東京にいるとすぐ忘れるんだわ。
ポイント残高を見たら、前の遠征の残りが少し入ってた。足りるかは分からんかったけど、とりあえず岡山エリアの掲示板を開いた。19時20分。
掲示板にあった二行と、送った文
「今日これから」のカテゴリを、上から見ていった。
この手の掲示板、全部が全部まともなわけじゃない。写真が異様に綺麗で本文が短いやつ、外部のURLが貼ってあるやつ、一行目から「LINEに移動しましょう」って書いてあるやつ。この辺は開いた瞬間に飛ばす。ここを飛ばせるかどうかで掲示板の使い勝手が全然変わるんで、丸腰で突っ込む場所ではないとは思ってる。
で、そういうのを弾いていくと、残るのはだいたい素っ気ない投稿になる。この日引っかかったのがこれだった。
明日休みなので今日どこかで軽く飲みたいです。お店はぜんぜん詳しくないです。
二行。それだけ。写真は載ってない。ハンドルは「りな」で、年齢のところに28と書いてあった。
「お店はぜんぜん詳しくない」って一文で、なんか信用した。その街に住んでる人が自分から店を出せないって、実際けっこうある。毎日通ってる駅の周りほど、飲み屋の名前を知らないままだったりする。俺だって、家の最寄りで人に勧められる店を3軒挙げろって言われたら怪しい。
あと「明日休みなので」の順番も引っかかった。飲みたい理由が先じゃなくて、動ける条件のほうが先に来てる。文章を作りにいってない人の書き方だなと思った。まあ、その辺は開いた瞬間の勘でしかないんで、外すときは普通に外す。
一通目はこう送った。

はじめまして。俺も店ぜんぜん知りません。出張で今日から岡山にいるだけなんで、地元の人より知らない自信あります。今日、駅の近くで一杯どうですか
ひねりゼロ。ひねる時間もない。掲示板から送るときは、自分がどういう立場でここにいるのかを最初の三行で分かるようにする、くらいのことしか考えてない。長い自己紹介を書いても最後まで読まれないし、逆に一行だと業者と区別がつかない。
ちなみに、同じカテゴリの別の投稿にも、このあとほとんど同じ文面でもう一通送ってる。そっちは朝まで待っても返事が来なかった。この夜に掲示板から出したのは2通で、返ってきたのは結局この一通だけだった。
前に静岡で同じことをやった夜は、使ったのが別のサービスだった。あの時は向こうの掲示板に「地元の人と喋りたい」って書いて放り込んだんだけど、書き方は今回とほとんど変わってない。土地が変わっても、出張中の人間が書けることってそんなに多くないんだわ。
返事が来てから合流まで、1時間ちょい
送信が19時38分。返信が来たのが20時02分。
こんばんは。出張なんですね


そうです。水曜から金曜まで。明日は昼の便で帰るんで、動けるの今日だけなんですよね
今日?(笑)


今日です。会食が飛んで、夜が全部あいてしまって
飛ぶことあるんですね、会食って

ここで一回、返信が止まった。5分くらい。たぶん考えてたんだと思う。俺は俺で、ベッドから起き上がってワイシャツのシワを見てた。
わたし21時くらいなら出られます。でもほんとに店知らないですよ


じゃあ俺が調べます。西口側と東口側、どっちが出やすいですか
西口です。職場が西口なので


了解です。じゃあ21時15分に西口のバス乗り場の前で
わかりました

決まったのが20時21分。返事が来てから19分。
そこから店を探した。ホテルのベッドの上で地図アプリを開いて、西口から歩いて5分くらいの、雑居ビルの2階に入ってる普通の居酒屋を押さえた。個室じゃなくて、カウンターとテーブルが半々みたいなやつ。初対面で個室に通されると、俺のほうが気まずい。

20分で決まるって、それもう待ち合わせっすね

掲示板って基本そうなんだわ。相手も今日の話で書いてるから、迷う要素がそもそも少ない
シャツを着替えて、部屋を出たのが20時50分。俺が泊まってたのは東口側だったんで、地下の通路を抜けて西口まで歩いた。着いたのが21時07分。
会食が飛んだ連絡を受け取ったのが17時半で、実際に人と向かい合って座ったのが同じ日の21時20分。そのうち、掲示板を開いてから待ち合わせが決まるまでは1時間ちょいしかかかってない。出張中の夜って、動くと決めてからが異様に短いんだよな。
金のほうも書いておくと、掲示板への送信2通と、そこからリナと何往復かしたぶんで、俺が使ったのは締めて300円ぶんくらいだった。前の遠征で買った残りでそのまま足りて、この日は追加で買ってない。
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敬語が抜けたのは、ビール一杯目の途中だった
バス乗り場の前で立ってたら、右のほうから小走りで来る人がいた。
黒のダウンに、下は仕事着っぽい紺のスカート。髪は後ろでまとめてて、手には小さいトートだけ。走ってきた勢いのまま、二歩手前で止まって頭を下げた。
すみません、上がるのちょっと遅れて


全然です。俺、10分前から突っ立ってただけなんで
寒くなかったですか


寒かったです。笑
(笑)じゃあ早く行きましょう

歩きながら、職場が駅のすぐそこのビジネスホテルだって聞いた。俺が泊まってるのとは別の系列で、駅を挟んで反対側。3年目で、今日は日勤の遅番上がり。
雑居ビルの階段は一段の高さが妙にあって、2階の店に着いたら、木曜の21時半なのに8割埋まってた。奥の座敷はスーツの団体。手前は学生っぽい四人組。俺らは入口寄りの、二人がけの小さい卓に通された。
この卓が良かった。幅が60センチあるかないかで、向かい合ってるのに声を張らなくていい。奥の団体がうるさい店でこの距離だと、二人とも自然と前かがみになって、話す声のほうがどんどん小さくなっていく。壁の手書きのメニューも、首を伸ばせば二人とも同じ紙を読める。
生ビールを2つ。

お疲れさまです。急に呼び出したみたいになってすみません
いえ。わたしが今日って書いたので


あの投稿、二行しかなかったですよね
長く書くと嘘くさくなる気がして


分かる。俺も長いの読まないです
最初の10分は、お互い当たり障りのない話だった。岡山は何回目ですかとか、仕事は何やってるんですかとか。俺のほうもまだ敬語で、リナも語尾がきっちり「です」で終わってた。
崩れたのは、仕事の話に入ってからだった。

フロントって、深夜も人来ます?
来ます。夜行バスが着く時間があって、そこでどっと


あー、あの時間か
あと、駐車場の場所ね。あれ一日に何回説明してるかわかんない


今、急にタメ口になりましたね
あ、すみません


いや戻さなくていいです。そっちのほうが聞きやすい
じゃあ戻さない(笑)

ビール一杯目の途中。時計を見たら、店に入ってから20分経ってなかった。俺が会ってきた中でも、この切り替わりはかなり早いほうだった。
そこからは、ほとんどリナが喋って俺が聞いてた。
忘れ物の話が一番おもしろかった。充電器と傘は毎日出るらしい。そこはまあ想像がつく。びっくりしたのが「枕」で、自分の枕を持ってきて泊まって、そのまま置いていく人が定期的にいるんだと。
枕、送るのけっこう大変なんだよ。箱がないから


枕を忘れて帰る人、どういう精神状態なんだろ
朝が弱いんだと思う


優しい解釈だな。笑
俺は俺で、前の月に別の出張先で充電器を丸ごと置いてきた話をした。フロントに電話して着払いで送ってもらったやつ。
じゃあ完全にこっち側の人だ


忘れる側です。すいません
(笑)いいよ、送るのは充電器なら楽だから

料理は、鶏の唐揚げと、だし巻きと、あとママカリの酢漬けってやつを頼んだ。岡山に来たなら食えって前に取引先の人に言われてたのを思い出して。小さい魚の酢漬けで、俺はけっこう好きだった。
食ってる途中で、変なことに気づいた。
リナ、俺が箸を置くとほぼ同時に自分も置く。俺が唐揚げに手を伸ばすまで、自分からは取らない。最初は遠慮してるだけかと思ってたんだけど、こっちが急に速く食い出した時も、ちゃんとついてくる。

食べるの、俺に合わせてません?
え


さっきから箸を置くタイミング、完全に一緒なんですよ
……ほんとだ


自覚なかったんですね
なかった。仕事の癖かも。並んでる人の速さ、ずっと見てるから

そこから、じゃあ今から逆にしてみようって話になって、俺がわざとゆっくり食ったら、リナもゆっくりになった。二人で一口ずつ止まりながらだし巻きを食べる時間が発生して、後ろの団体がドッと笑ったタイミングでこっちも笑った。
本人が一番気づいてなかったのが良かった。フロントに立ってる人が、カウンター越しに相手の速さを毎日読んでるっていうのは、言われてみればそりゃそうなんだけど、それが休みの前の日の居酒屋でも切れずに動いてるのが面白かった。
23時前にラストオーダーが回ってきた。

ラストオーダーになりますが、いかがされますか

どうします
んー……もう一杯だけ

そのもう一杯で、話は完全に仕事から離れてた。リナが岡山に出てきた経緯とか、実家が県北のほうで冬は雪が積もるとか、車の免許は持ってるのに3年ペーパーだとか。そういう、その日限りで聞いて終わるかもしれない話を、ずっと聞いてた。
会計は割り勘。リナが自分の分をきっちり出してきて、端数のところで少し揉めた。100円玉を三枚こっちに押し付けてきて、俺が押し返して、二往復して、結局向こうが勝った。レジの横で財布を開けたり閉めたりしてる二人を、店員が黙って待ってた。
岡山駅西口のロータリーで別れるまで
俺はこの子とは、Jメールの掲示板で出会った。二行の投稿と、俺が返した数行だけで、その日の21時に西口で会ってる。
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店を出たのが23時20分過ぎ。あの急な階段を、リナが手すりを掴んで一段ずつ下りていって、俺は後ろから「危ないですよそれ」って言いながら見てた。
外に出たら、店の中の熱気の分だけ空気が冷たかった。リナがダウンのファスナーを首まで上げて、そのまま俺の半歩後ろについてきた。歩く速度が、また合わせられてた。今度は俺のほうが気づいてて、わざと少しゆっくり歩いた。
駅までの5分、二人ともほとんど喋らなかった。信号待ちで一回だけ、リナが手袋をしてない両手を口元に当てて息を吹きかけてた。二軒目、って言葉がお互いの頭に浮かんでたのも分かってた。ただ、リナは休み前とはいえ今日は仕事上がりで、俺は翌日の午前に打ち合わせが一件残ってる。この夜に、それ以上の話は無い。
俺は、相手が仕事上がりで出てきてくれた日は粘らない。粘って得したことが一度もないってだけの話で、格好つけてるわけじゃないんだけど。
西口のロータリーまで来た。タクシー乗り場に3台並んでて、一番前のやつが客を待って窓を少し開けてた。バス停の屋根の下は、この時間だともう誰も待ってない。リナの家は歩いて15分くらいだって言うから、ここで別れることになった。

今日、ほんと助かりました。ラーメン食って寝るとこだったんで
ラーメンも食べればよかったのに


今から入りませんて
(笑)


じゃあ、気をつけて
リナは一回、横断歩道のほうに三歩だけ歩いて、それから戻ってきた。そして俺のコートの肩に手を伸ばして、ついてた白い糸を一本つまみ取ると、それを指先で小さく丸めて自分のポケットに入れた。
この流れの次に読む記事。
読み終わったあとに動きやすいように、連絡、街での流し方、次の場づくりに近い記事を置いています。


