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【Jメール 神戸】三宮で5ptの募集を書いた夜、トアウエストの坂の一軒に長居

【Jメール 神戸】三宮で5ptの募集を書いた夜、トアウエストの坂の一軒に長居
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NIGHT REPORT / 神戸

Jメール 神戸三宮で5ptの募集を書いた夜、トアウエストの坂の一軒に長居

神戸出張の一日目、打ち合わせが早く終わった月曜の夕方に、三宮の部屋から、山側の店で一杯という募集を出した。「坂、のぼれる人ですか」と聞いてきたのは、山側に住むミホ。北口で一回すれ違ってから振り返り、トアウエストの坂の途中の店で、冗談のオチを言わされ続けた夜。

Jメール 神戸神戸読了 14分
01 ENTRY入口を作る02 PLACE神戸で動く03 VIBE空気を読む04 NEXT次へ繋ぐ
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TYPEミホ 28歳
港の近くの物流会社の総務(住んでるのは山側)
PLACE神戸
現場
HOOK現場感を
そのまま読む

三宮の北口で、俺は一回、ミホの横を素通りしてる。ミホのほうも、俺の横を素通りしてた。お互い三歩ずつ行き過ぎてから、どっちからともなく振り返った。月曜の20時の北口って、仕事帰りのスーツの男と、髪を後ろでひとつにくくった女の人が、思ってたよりずっと多いんだよ。

神戸出張の一日目。夕方に打ち合わせが早く終わって、三宮のホテルの机で、Jメールに自分で募集を書いた。返事をくれたのはミホ。港の近くの物流会社で総務をしてて、歳は28。住んでるのは山側。その夜はトアウエストの坂の途中にある小さい店に一軒だけ入って、ラストオーダーまで座ってた。二軒目には行ってない。

Scene 01

打ち合わせが16時半に終わって、月曜の夜に予定が無くなった

出張は月曜から水曜までの二泊で、宿は三宮に取ってあった。初日の打ち合わせは14時から18時までの予定で、先方は会議室を夕方まで取ってくれてた。それが16時半に終わった。こっちが持っていった案が、先方の部長のところで一回で通ったからだわ。先方の担当の人に「早かったですね」と笑われながらビルを出たら、空がまだ明るかった。

宿に戻ったら17時すぎだった。部屋は北向きで、窓の正面にビルが二つ並んでて、その隙間に山の稜線が見えてた。神戸はどこに泊まっても、北を向けば山があるんだよな。

アキ
アキ

明日の準備は、明日の朝で間に合う。今夜はもう、誰にも呼ばれないわ。

机の前に座って、スマホからJメールにログインした。

人の募集を探して返すか、自分で書くか。少しだけ迷って、書くほうにした。「山側」って言葉を、こっちから先に出しておきたかったんだよ。前に神戸に泊まったのは大阪の出張のついでに、最後の一晩だけ三宮に泊まった夜で、あのときは元町から海のほうへ下りてる。今回は上に行きたかった。ただ、神戸を山側と海側に分けて歩き方を書いたガイドにもあるとおり、山側は店が閉まるのが早くて、21時を回ると坂の上は静かになる。上で遅くまで座れる店を、出張一日目の俺は一軒も知らない。知ってる人に、最初から山側のつもりで来てもらうしかなかった。

Jメールで自分の募集を出したのも、これが初めてじゃない。熊本に行く前の晩、羽田の近くのホテルで書いた募集は、言い訳を二つ入れたまま出してて、次の朝のバスで読み返して後悔した。今回は打ち合わせがもう終わってて、夜が空いてることだけは、はっきりしてるんだよな。言い訳を書く理由がない。

募集は、出すのに5pt。打ったのはこれ。

月曜の夜ですが、三宮のホテルにいます。
出張で、水曜までこっちです。
山側の小さい店で一杯、どなたかご一緒しませんか。

このサービス自体、18歳未満は入れないし、高校生なら18になってても入れない決まりになってる。

出したのは17時26分。熊本のときは前の晩に出して、返事が来たのは次の日の夕方だった。今回は、待てる時間がせいぜい2時間くらいしかない。返事が来なかったら、海側に下りて一人で飲めばいい。そのくらいの気持ちで、スマホを伏せてシャワーを浴びた。

Scene 02

「坂、のぼれる人ですか」に、一通7ptで返した

18時すぎ、髪を拭きながらログインし直したら、18時7分着で一通。

ミホ

山側に住んでます。坂、のぼれる人ですか?

ミホ

住んでる場所を言って、すぐ質問。冗談なのか、本気で脚力を聞かれてるのか、見当がつかないんだよ。どっちにしても答えは同じなんで、この「坂」を拾うことにした。こっちの説明を長く書くより、一行で返すほうが、この人には合ってる気がした。

アキ
アキ

坂、のぼります。息が切れたところを一軒目にします

これを18時14分に。8分後には、もう次が来てた。

ミホ

それだと、一軒目が坂のだいぶ下になりますね

ミホ
ミホ

20時に三宮の北口でどうですか。一回家に帰って、着替えてから下ります

ミホ

一通目で、もう脚力を値踏みされてる。笑 二通目のほうは、やたら具体的だった。会社から坂を上っていったん家に帰って、着替えて、また下りてくる。20時って時刻は、その往復ぶんなんだと思う。

アキ
アキ

20時、北口で。目印になりそうなの、スーツくらいしかないです

ミホ

髪、後ろでひとつにくくってます

ミホ
ミホ

上の店は早く閉まるとこが多いんで、遅くまでやってる一軒にしますね

ミホ
アキ
アキ

助かります。上で遅い時間まで飲んだこと、一回も無いんで

ミホ

大丈夫です。下りは転がれば着きます

ミホ
アキ
アキ

転がる前提なんだ。笑 じゃあ20時に

最後の一通は、送るかどうか一回考えた。了解の一言に7ptって、毎回ちょっと高く感じるんだわ。ただ、転がれば着くと言われて黙ってるのは、なんか負けた気がした。送ったのは18時50分。

数えると33pt。募集が5ptで、残りは俺が送ったメール4通ぶん。待ち合わせまでのあいだ、やり取りを上から読み返しては、「転がれば着きます」のところで毎回ちょっと笑ってた。19時40分には部屋を出た。北口までは、歩いて10分かからない。

Scene 03

北口で一回すれ違って、三歩目で振り返った

19時50分の北口は、駅から出てくる人と、その人たちを待ってる人で、けっこう混んでた。月曜の夜でも、仕事帰りに三宮で一杯やる人はちゃんといる。俺は流れの端に立って、髪を後ろでひとつにくくってる人を探した。三人見つけて、三人とも違った。周りの男は、半分くらいが俺と同じ格好だった。

20時ちょうど、山のほうから歩いてくる人がいた。グレーのパーカーに細身のデニム、足元は白いスニーカー。髪は後ろでひとつ。歩くのが速い。一瞬こっちを見て、そのまま俺の横を抜けていった。俺は俺で、駅から出てくる人のほうに目をやりながら、反対側へ三歩出てた。

三歩目で、なんとなく振り返った。向こうも、こっちを振り返ってた。

ミホ

……今、すれ違いましたよね

ミホ
アキ
アキ

すれ違った。俺も、そっちも

ミホ

北口で顔見たスーツの人、アキさんで五人目です

ミホ

そこでミホは口を閉じた。真顔のまま、こっちを見てる。続きを言う気配がない。

アキ
アキ

……で、五人目でやっと振り返ってみた、と

ミホ

(笑)私、なんも言ってないやん

ミホ

真顔が崩れるのは一瞬だった。肩が揺れて、笑いきったら、すぐ元の顔に戻る。この人の顔、もしかしたら二種類しかないのかもしれない。

アキ
アキ

目印、お互いに意味なかったね

ミホ

月曜の北口のスーツは、ほぼ迷彩です

ミホ
アキ
アキ

迷彩。笑 次から何着てくればいいの

ミホ

それは、坂のぼれたら考えます。じゃあ、上がります

ミホ
アキ
アキ

もう?

ミホ

店、坂の途中なんで

ミホ

北口から山のほうへ向かうと、坂が始まるのは思ったよりすぐだった。トアウエストの路地に入るころには、足元がはっきり上を向いてる。両側は古着の店とか、小さいカフェとか。月曜の20時すぎだと、閉まってる店のほうが多い。路上に人はほとんどいなくて、灯りがついてるのは、飲み屋の小さいガラス戸くらいだった。

ミホは、坂になった途端に速くなった。歩幅は変えないで、足の回転だけ上げていく感じ。スニーカーの人と、革靴の俺。三宮に着いてから平らなとこしか歩いてない脚には、この傾きが地味に効く。気づいたら二歩ぶん後ろにいた。

ミホ

山側の人は、坂で人を見るんです

ミホ
アキ
アキ

何を見んの

返事はない。前を向いたまま、ペースも落とさない。

アキ
アキ

……息が上がってるかどうか?

ミホ

言ってへんよ、なんも(笑)

ミホ
アキ
アキ

言ってないけど、待ってたじゃん

ミホ

待ってました

ミホ

角のところで、ミホが一回止まって振り返った。待っててくれたのかと思ったら、俺の顔を見て、何も言わずにまた上り出した。息が上がってるかどうかは、しっかり確認されてた。笑

店は、北口から10分くらい上がったところにあった。この先をもう少し上ると北野で、夜はもう人が歩いてないほうの坂になる。その手前の、ガラス戸の小さい店。中はカウンターが六席と、壁ぎわに二人がけが一つ。先客は奥の席に二人いて、店主が一人で回してる。黒板にはワインの名前が何本かと、つまみが五つくらい書いてあった。

Scene 04

トアウエストの坂の途中で、オチを言う係にされた

入口に近い二席に、並んで座った。ミホは白、俺は赤を、一杯ずつ頼んだ。つまみはミホが黒板から二つ選んだ。にんじんのラペと、鶏レバーのパテ。

ミホ

ここ、23時までやってるんです。上のほうだと珍しいんで

ミホ
アキ
アキ

それで「遅くまでやってる一軒」か

ミホ

帰り道なんで、閉まってるとこ見たことないです

ミホ

店の照明は低めで、手元のあたりだけがオレンジっぽく明るい。並んで座ると、ミホの横顔が近い。冗談を言ってないときのミホは、ただの静かな人に見える。パーカーの袖を手首のところで一回折ってて、グラスを持つ手がやたら落ち着いてる。こっちは坂の息がまだ少し残ってて、一口目の赤が思ったより早く回った。

ミホ

東京って、坂あるんですか

ミホ
アキ
アキ

あるよ。名前がついてる坂が、けっこうある

ミホ

名前つけて覚えとくくらい、少ないんや

ミホ
アキ
アキ

そういう理由じゃないと思う。笑

仕事の話は、こっちから聞いた。港の近くにある物流会社の総務で、6年目。事務所の窓から見えるのは、海じゃなくて、トラックの列と積み上がったコンテナらしい。生まれは神戸の西のほうで、就職してから山側に部屋を借りた。朝は坂を歩いて下りて、帰りも、よっぽど疲れてなければ歩いて上がる。

アキ
アキ

総務って、どこまでやる人なの

ミホ

会社の困りごとが、だいたい全部来ます

ミホ
アキ
アキ

全部って、たとえば

ミホ

蛍光灯が切れたとか、駐車場の白線が消えかけてるとか。あと猫

ミホ
アキ
アキ

猫?

ミホ

倉庫に住みついてるんです。で、総務で名前つけることになって

ミホ
アキ
アキ

名前まで総務なんだ

ミホ

はい。先週から会議してて

ミホ

ミホはそこでグラスを持ち上げて、一口飲んで、カウンターに戻した。続きは言わない。表情も変えない。北口で見たのと、同じ間だった。

アキ
アキ

……会議して?

返事はない。グラスの脚をつまんだまま、待ってる。

アキ
アキ

……まだ決まってない

ミホ

(笑)三回やって、まだ「猫」です

ミホ
アキ
アキ

合ってんのかよ。笑

ミホ

議事録にも、猫って書いてあります

ミホ
アキ
アキ

議題も猫で、名前も猫なんだ

ミホ

次の会議の議題も、猫です

ミホ

ここで、やっと分かった。この人は、小さい冗談は自分で言い切るのに、話の最後の一行だけは言わない。そこだけ空けたまま真顔で待って、俺に言わせる。言えたら笑う。外したら、何事もなかった顔で次の話に移る。北口の「五人目」も、坂の「人を見る」も、全部それだったじゃん。

コウ
コウ

オチ待ちの間、アキさん何秒黙ってたんすか

アキ
アキ

数えてない。体感は10秒だわ。笑

一回、こっちからやり返してみた。

アキ
アキ

俺さ、今日の打ち合わせ、一回で通ったんだよ

アキ
アキ

で、夕方が丸ごと空いて

そこで止めて、真顔でミホを見た。待つ側に回るのは、この夜はじめてだった。ミホは2秒くらい黙って、表情を一個も変えずに言った。

ミホ

……ホテルで、募集を書いた

ミホ
アキ
アキ

それ、オチじゃなくてただの事実なんだよ。笑

ミホ

事実のほうが、おもしろいやん

ミホ
アキ
アキ

俺の募集、おもしろかった?

ミホ

「山側の小さい店」って、自分で探す気ないんかなって(笑)

ミホ
アキ
アキ

ないよ。遅くまでやってる店、知らないんだから

ミホ

素直やね

ミホ

21時を過ぎたあたりで、ガラス戸の向こうを通る人がいなくなった。坂を上っていく足音が一回だけして、それも消えた。店主がかけてる音楽が、さっきより少し大きく聞こえる。先客の二人が帰って、カウンターは俺たちだけになった。

二杯目はミホが選んだ。俺にも同じ白。LINEは、その二杯目の途中で交換した。

白が半分くらいになったころ、17時26分に部屋の机で出した募集のことを思い出した。山側、と入れたあの募集に、ほんとに山側の人が来てくれてる。返事が来なかったら、今ごろ海側で一人で飲んでた。

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Scene 05

ラストオーダーのあと、坂を下りる10分

店主
店主

すみません、ラストオーダー22時半です

ミホ

私、お水だけください

ミホ

会計は、ミホが席を立ってるあいだに済ませた。戻ってきたミホは、伝票が消えてるのに気づいて、カウンターの上を一回見回した。

ミホ

伝票、どこ行きました

ミホ
アキ
アキ

猫が持ってった

ミホ

(笑)総務に上げときます

ミホ

22時35分に店を出ると、坂の上にも下にも、人が一人もいなかった。街灯が坂に沿って、間をあけて並んでる。店にいたあいだに、外の空気がひとつ冷えてた。

下りは、ミホのほうがゆっくりだった。上りであれだけ速かった人が、下りは俺の横から一歩も前に出ない。こっちが少し速くすると、ミホも少し速くなる。上りのとき、俺は二歩後ろにいた。下りは、ずっと横並びだった。

アキ
アキ

下り、遅くない?

ミホ

下りは、転がらないように歩いてるんで

ミホ
アキ
アキ

メールで、転がれば着くって言ってたじゃん

ミホ

あれは、アキさん一人で下りるときの話です

ミホ

坂が終わって平らな歩道に変わる手前に、段差が一つあった。ミホはその段差の上で止まった。俺は一段下。段差のぶんで、目の高さがちょうど揃った。北口で振り返ったときより、顔がだいぶ近い。

ミホ

ここまで下りたら、帰りはまた全部上りやん

ミホ

真顔だった。続きは言わない。待ってる。この夜、何回目かの、あの顔。

アキ
アキ

……じゃあ、なんで下りてきたの

ミホ

それは、アキさんが言うとこやん

ミホ

言うとこ、と言われても、うまい一行は出てこなかった。段差の上と下で、目の高さを揃えたまま黙ってた。坂の上のほうで、どこかの窓の明かりがひとつ消えた。

コウ
コウ

上まで送るって、言わなかったんすか

アキ
アキ

言ったよ。そしたら「坂、のぼれる人ですか」って、メールの一通目をそのまま返された

ミホは段差の上で手を上げて、坂を上っていった。速い。来たときと同じで、歩幅は変えずに回転だけ上げていく。グラス二杯のあとでも、足取りは店に来るときと何も変わってなかった。街灯三つぶん上ったところでもう一回振り返って、また手を上げた。こっちも上げ返して、平らな道のほうへ一回向き直った。もう一度見上げたときには、街灯の下に誰もいなかった。

Scene 06

四回目の会議の朝、三宮のホテルの窓から山側を見た

部屋に戻って20分くらいたったころ、ミホからLINEで一行。

ミホ

猫の会議、明日の朝イチで四回目です

ミホ
アキ
アキ

じゃあ俺は、四回目も「猫」のままに賭けとく

向こうからは、それきり何も来なかった。たぶん、もう寝てる。真顔のまま寝てそうな気がする。

神戸でJメールを開いたのは、この出張が初めてだった。前に三宮に泊まった夜は、最後まで一回も開いてない。

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翌朝7時すぎ、窓の正面には、昨日の夕方と同じ二つのビルと、その隙間の山があった。夕方は稜線しか見てなかったけど、朝の光だと、その手前の斜面に家の屋根が段になって積み上がってるのが分かる。屋根と屋根のあいだを、細い坂が何本も上に向かって伸びてる。ミホが街灯三つぶん上ってから消えた坂が、あの中のどれなのかは分からない。もう少ししたら、あの斜面のどこかからミホが歩いて坂を下りはじめて、港の近くで四回目の会議が始まる。

NEXT ROUTE

この流れの次に読む記事。

読み終わったあとに動きやすいように、連絡、街での流し方、次の場づくりに近い記事を置いています。

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ABOUT ME
アキ
ナンパ歴10年ちょい。アプリ・ストナン・相席・遠征までなんでも行く30代。実際に行って出会って、どうなったかをそのまま書いてます。