Jメール 福岡プロフ検索で見つけた30歳と、大名と今泉の路地で立ち飲みを三軒
福岡出張の金曜、天神の宿から大名の路地へ。3日前にJメールのプロフ検索で見つけた30歳の歯科衛生士ルミとは、店の人に「お連れさんですか」と通された立ち飲みで合流した。今泉と大名の立ち飲みを三軒回って、会計は毎回ルミの暗算で半分。一度だけ多めに払おうとして、計算で負けた夜の話。
薬院の歯科医院の歯科衛生士PLACE福岡
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店の人が伝票をこっちに向けるより先に、ルミが「アキさん、1,905円」と言った。福岡出張の金曜、大名の路地の立ち飲みで、その夜いちばん最初の会計をしたときの声。そこから今泉と大名の立ち飲みをもう二軒回って、三軒ぶんを足すと、会計はきっちり半分になってた。俺が一度だけ多めに払おうとした二軒目は、計算で負けてる。
きっかけはJメールのプロフ検索。出発の3日前の火曜、東京の部屋で福岡の人のプロフを読んでいって、ルミにだけ一通送った。その一通目の頭に置いたのは、時刻だった。
火曜の夜、プロフに「守る派」と書く人がいた
福岡への出張は、前の週のうちに決まってた。金曜の昼から天神で打ち合わせが二本あって、宿も天神。土曜は休みにしてあるんで、金曜の夜はまるごと空く。
福岡に入る3〜4日前から動き出す段取りは、百貨店のコスメカウンターで働く子と天神で会えた、福岡の別の夜のときから変えてない。金曜から数えると、火曜がちょうど3日前。その夜の22時すぎ、ソファに寝転がったままJメールを開いた。
プロフ検索で福岡の人を出して、一人ずつ開いては、自己紹介に「天神」か「大名」が入ってる人だけ最後まで読んだ。スマホで開いた料金表だと、プロフィールの閲覧は無料で、その後ろに「※一部消費有り」と注がついてる。はっきり減るのは画像のほうで、プロフィールの画像を見るのが3pt。文章は十何人ぶん読んだ。3ptを払ってまで画像を見たくなったのは、そのうち2人。
1人目は、プロフの文が「天神で働いてます」の一行しかない人で、画像を開いたら雑誌の表紙みたいな顔が出てきた。光の当たり方まで決まりすぎてる。整いすぎた写真はいったん疑うことにしてて、そのまま閉じた。
2人目がルミだった。30歳。自己紹介は短くて、文が四つ。
歯科で働いてます。仕事のあとは大名か今泉で一杯やることが多いです。待ち合わせの時間は守る派。お会計は割り勘派です。
画像を開いたら、ブレてた。笑ってる途中で撮られたらしくて、顔の下半分は手で隠れてて、残りの上半分もぶれてる。1枚目の整いすぎた顔のあとだと、このブレのほうがよっぽど本物の人間っぽく見えたんだよな。

守る派と割り勘派。派が二つ並んでるプロフって、なかなか無いわ。笑
一通目は、その守る派に乗っかって、プロフの中の地名と時間に寄せた。

金曜の20時すぎから、大名にいます。東京から出張で、土曜は休みです。時間を守るのは得意なので、一軒目の立ち飲みだけでも教えてもらえませんか
送ったのが22時40分で、ここで7pt。ちなみにJメールは18になるまで登録できないし、18を過ぎてても高校生のあいだは入れない。送ったあとで、自分のプロフの一行目も「金曜の夜、天神と大名にいます」に書き換えた。返事を待ってたら日付をまたぎそうだったんで、そこで電気を消して寝た。
12時38分の返事で、「20時すぎ」の「すぎ」を突かれた
水曜の昼休み、職場の下のカフェでコーヒーの列に並んでて、前の人が注文に迷ってるあいだに、ルミの返事を読んだ。
20時すぎって、何分ですか(笑)

すぎ、が10分か40分かで、先に入っとくかどうか変わるので

列の中で、声が出かけた。時間を守るのは得意です、と書いた同じ一通で、「20時すぎ」っていちばんゆるい書き方をしてるじゃん。ルミは、そこを見逃してくれなかった。

突っ込まれるの、そこなんだ。笑
コーヒーを受け取る前に返した。2通目。

20時15分で。19時に打ち合わせが終わるので、天神の宿に荷物を置いてから歩いていきます
次は木曜の朝。
了解です。20時10分に先に入っときます

西通りから一本入った路地の、入口に酒屋の木箱が積んである立ち飲みです

アキさん、写真が後ろ姿やけん、お店の人に頼んどきますね

頼んどくって、何をだろう。それが気になって、木曜の昼に3通目を打った。

頼んどくって、何を頼むんですか
東京の人が一人で来て、きょろきょろしよったら奥に通してって(笑)

きょろきょろする前提で話が通ってるのが、ちょっと悔しい。実際、するんだけどさ。
金曜は朝の便で福岡に入った。打ち合わせは二本とも天神のビルの中で、二本目が終わったのが18時55分。宿でシャワーを浴びてシャツを替えて、20時4分に4通目を送った。

今から宿を出ます。20時15分で変わらずです
了解。もう入っとる(笑)

20時11分。俺はまだ、西通りの信号の手前にいた。
火曜の夜に画像を2回開いて6pt。メールのほうは火曜、水曜、木曜と、今夜の「今から宿を出ます」で4回、一回が7pt。ここまでで34pt減ってる。
天神の宿から大名までは、歩いて5分。西通りを一本裏に入ると、道幅がいきなり半分になる。古着屋はもうシャッターを下ろしてて、その前で20代前半くらいの2人組が、スマホを覗き込みながら店を選んでた。夕方の天神から明け方まで、福岡の夜を時間帯ごとに歩いたガイドで20時台に回してる大名の路地は、今夜も、立ち飲みの灯りから先に埋まっていってた。
酒屋の木箱の前で、店の人に「お連れさんですか」
木箱は、路地の三つ目の角を曲がったところに積んであった。20時14分。中を覗くと、間口が狭くて奥に長い。壁に沿ってカウンターが一本通ってて、立ってる客は十人くらい。スーツの二人組、仕事帰りらしい女の人の三人組、一人で飲んでるおじさん。入口から中を見回した、その一回目で、カウンターの中の女の人と目が合った。

お連れさんですか?

あ……たぶん、そうです

奥の、ハイボールの方。東京の人が来たら通してって言われとるけん(笑)
きょろきょろは、ちゃんとしてたらしい。手前の客に半歩ずつ詰めてもらいながら奥へ進むと、カウンターのいちばん端に、黒いワンピースの人がグラスを半分空けて立ってた。前髪を一本のピンで留めてて、左の手首に文字盤の大きい腕時計。その時計を、こっちの顔より先に一回見た。
顔を上げたルミの目元は、画像のブレてた上半分とちゃんと同じだった。手で隠れてた下半分は、思ってたより口が大きい。こっちは店に入って10秒で店の人に捕まって、奥まで送り届けられた身なんで、第一声を考える時間もなかった。
1分早いやん(笑)


15分って書いたから、15分に入るつもりで歩いてきた
えらい。うちの患者さんやったら、褒めるとこ


患者さん?
歯医者。薬院の。プロフには歯科ってしか書いとらんけど


先生のほう?
衛生士(笑) 歯石とったりする人

薬院の歯科医院で、衛生士になって8年目。予約は一人30分の枠で組んであって、朝いちばんの人が10分遅れると、そのずれが夕方の最後の人まで順番に送られていくらしい。それを毎日見てると、待ち合わせの「すぎ」が気になる体になる。

それで、20時すぎって何分ですか、だったんだ
そう(笑) すぎ、がいちばん困るっちゃん

俺が生ビールを頼むあいだに、ルミは二杯目のハイボールと、酢もつと、きゅうりの一本漬けまで通してた。酢もつは、ポン酢の酸っぱさの奥で、もつがこりこり鳴る。ルミはハイボールを飲むたびに、天板の同じ輪じみの上にきっちり戻す。手前のスーツの二人組が上司の悪口で盛り上がってて、その声に負けないように、俺らは少しだけ顔を寄せて喋ってた。

プロフの画像、ブレてたよね
あれ、友達が撮ったと。私が笑いよる途中で


途中って、どのくらいの途中
笑い出して、3分くらいたったとこ(笑)


3分は長いって
長いよ。いっぺん笑い出したら、止め方わからんもん


プロフの割り勘派ってのも、本気のやつ?
本気。奢られたら、次に何頼むか迷うやん


迷わず頼めばいいじゃん
迷うと(笑) 半分なら迷わん

21時ちょうどに、ルミが腕時計を見て「次、行こ」と言った。店の人がカウンター越しに伝票を出してくる。

4,260円です
最初の一杯は、アキさんが来る前のやけん私ね

アキさん、1,905円。私が2,355円

伝票を見る前に、もう数字が二つ出てた。

今、伝票見た?
見とらん。450円抜いて、半分にしただけ


5円まで割るんだ
割れるもん(笑)

財布を開けたら、5円玉がちょうど一枚だけ入ってた。千円札と五百円玉と、百円玉を4枚と、その5円玉。1,905円ぴったりを天板に並べたら、店の人が小さく笑った。

1,905円の割り勘で、ぴったり出せる財布もすごいっすね

5円玉、あの一枚しか入ってなかったんだよ。笑
今泉の二軒目で4,000円を置いて、計算に負けた
隣の今泉までは、歩いて何分もかからなかった。大名より明かりがひとつ落ちて、店の前で騒いでる人もいない。ルミが入ったのは、ワインをグラスで出す立ち飲み。壁一面にボトルが並んでて、客は30歳前後が多い。ここは声を一段落として喋る店だわ。
グラスの白を二つ頼んだところで、ルミが横目でこっちを見た。
さっき、木箱の前で二回のぞいとったやろ


見てたの?
見とった(笑) 一回目でお店の人に見つかっとったのに、もう一回のぞいた

ルミの口の端が上がって、肩が一回ふるえた。そこで手首の時計に目を落として、息を一つ吐いた。
いかん。ここで笑い出したら長い


知ってる。3分なんでしょ
今日は5分いくかもしれん(笑)

そのまま笑いを飲み込んだルミに、ずっと聞きたかったことを聞いた。

なんで、あの一通に返してくれたの
一行目が時間やったけん

……すぎ、やったけど(笑)

火曜に先頭へ持ってきた時刻は、向こうでもちゃんと一行目として読まれてた。地名を先に置くか、時間を先に置くかで、あの夜は5分くらい迷ってる。迷った末に時間を先にした自分を、ちょっと褒めたくなった。

さっきの割り算、なんであんなに速いの
そろばん。小学校で4年やっとった


4年やると、ああなるんだ
なる(笑) 頭の中に玉が出てくるもん


今も出てる?
出とる。アキさんの1,905円も、玉で出した

今度はルミのほうから、俺の仕事を聞かれた。IT系で、今日は打ち合わせが二本、と答えたら、ルミはワインを置いて指を一本ずつ折った。
二本で一日?


移動もあるし、資料も直すし
うち、今日16人担当したよ(笑)


……数で比べるのはやめない?
21時55分、白が二杯ずつ空いたところで、今度はこっちが先に動いた。会計は5,400円。ルミが口を開く前に、千円札を4枚カウンターに置いた。

ここは俺が多めで
じゃあ私、1,400円

……アキさん、1,300円多いよ


多めでって言ったじゃん
三軒目、私が半分より1,300円多く払うね


それだと、多めに出した意味がなくない?
なか(笑)


じゃあ、三軒目も俺が多めに出したら?
そしたら、四軒目がいるね

言い返す数字が、どこからも出てこない。千円札の上に置いてた手を、そのまま引っこめた。三軒目で半分より1,300円多く払うのはルミのほうで、それで二軒目までの差はなくなる段取りになった。

奢ろうとしたら四軒目の予約が入りかけてる

言い負かされたんじゃなくて、割り切られたんだよ。笑
ルミは、火曜の夜に俺がプロフ検索から送った一通に、次の日の昼休みに返してくれた人だった。その返事の一行目が「20時すぎって、何分ですか」なんだから、最初から数字の人ではあったんだよな。
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大名に戻った三軒目で、500円と言ってしまった
22時すぎ、また大名に戻った。今泉から路地に入り直すと、立ってる人の年がひと回り若くなって、店の外まで笑い声がこぼれてる。最後は餃子、とルミが先に決めてた。鉄板の前に立って食う造りの店で、焼き場の大将が鉄板の端から端まで餃子を並べて、上から大きな蓋をかぶせる。蓋の中で、じゅう、と音がこもる。
注文が通ったところで、ルミがスマホを出した。
先にLINE教えとくね


急にどうしたの
端数が出たら、送らないかんけん


精算用のLINEって、そういう交換の仕方あるんだ
あるよ。うちだけかもしれんけど(笑)

焼き上がった餃子は一口で食える小ささで、皮の底だけがばりっとしてる。二皿目を待つあいだに、帰りの時間の話になった。
今日は23時まで。最初から決めとったけん


23時ちょうど?
ちょうど(笑)

22時45分、大将が会計の数字を言った。今度こそ、先に言うつもりでいた。二軒目の1,300円を引いた、俺のぶんの数字まで。

3,800円ね

待って、今回は俺が言う。1,900から1,300引いて……500!
ルミが吹き出した。
ご、ごひゃ……(笑)

そこから止まらなかった。カウンターの縁に片手をついて、肩を揺らして、何か言おうとして息を吸うたびに、また頭から笑い直す。言いかけた数字が、笑いの中で三回くらい出かかっては消えた。笑い声そのものは小さい。小さいのに、いつまでも終わらない。大将はへらを持ったまま待ってて、後ろに立ってた客まで、こっちを見て口元をゆるめてる。俺は、自分の言った500円が店じゅうに知れ渡っていく感じがして、首の後ろがじわじわ熱くなってた。

そんなにおかしい?
待って。笑いよる時は、計算できんけん


計算できなくても、俺が間違ってるのは分かるんだ
わかる(笑) 100円たらん

息が整うまで、1分くらいかかった。プロフの画像の3分よりは、だいぶ短い。
アキさん、600円


三軒目が600円って、なんか悪いわ
悪くなか。三軒で、ちゃんと半分


で、600円はちゃんと払ったんすか

払ったよ。今度は自分で数えずに。笑
店を出たのが22時50分。路地には、ほかの店から出てきた人がぞろぞろいて、みんな同じほうへ流れていく。那珂川のほうへ。23時が近づくと、大名はそういう流れ方をする。
川のほうに行く人たちやね


行く?
行かん。言うたやん、23時(笑)

那珂川を渡った福岡の夜は、別にある。天神の信号待ちで声をかけて、那珂川のほうへ歩いた夜のほう。今夜は、川へは一歩も向かってない。
路地の角まで来たところで、ルミが足を止めた。
まだ、ちょっとある

それだけ言って、ルミは笑うのをやめて、こっちを向いた。
23時ちょうど、ルミは口の形だけで「ろっぴゃく」と言ってから、今泉のほうへ歩いていった。
天神の宿までは5分の道を、たっぷり倍かけて歩いた。西通りに出るまでに、財布の小銭入れを二回のぞいてる。5円玉は、もう一枚も残ってなかった。
土曜の9時50分、精算のLINEが一行
土曜の朝、宿の部屋でテレビをつけたまま着替えてたら、9時50分に、ルミから精算の連絡が来た。
昨日の三軒。最初の一杯を抜いて、ひとり6,505円でした


5円まで揃ってるの、ちょっとこわい
一軒目の5円が、最後までおるっちゃん(笑)


あの5円玉、財布に一枚しかなかったやつだわ
知っとる。横で数えよったもん(笑)

10時から予約やけん、行ってきます

予約の10分前。送ってくる時間まで、ルミの腕時計どおりだった。
ルミのプロフは、東京のソファで寝転がったまま読んでる。
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18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
昼すぎに宿を出て、大名の路地を一本だけ歩いた。昼の大名は古着屋が開いてて、立ち飲みのほうはシャッターが下りてる。酒屋の木箱も、店の中にしまわれてた。三軒ぶんの会計を頭の中で足し直そうとして、二軒目の4,000円のところで、一人で笑ってしまった。笑ったら、数字がどこかへ行った。かわりに、鉄板の前で息を切らしてた声のほうが先に戻ってくる。
「待って。笑いよる時は、計算できんけん」
遠征の夜を、もう一段深く読む。
旅行先や別エリアで空気を作る時に役立つ、街の入り方と夜の動線を集めました。


