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【江ノ島ナンパ】夏の終わりの片瀬海岸で、写真を撮りに来てた子と

【江ノ島ナンパ】夏の終わりの片瀬海岸で、写真を撮りに来てた子と
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STREET REPORT / 現場

夏の終わりの片瀬海岸で、写真を撮りに来てた子と

八月の終わりの江ノ島に行った話。営業最終日の海の家、パラソルの抜けた片瀬海岸で、しゃがんで海を撮ってた23歳のフウカに声をかけた。撮った写真をすぐ見せない子と店じまいの島を歩いて、連絡先の交換だけで終わった夏の終わりの湘南レポ。

江ノ島ナンパ現場読了 14分
01 STREET声をかける02 WALK現場で流す03 DRINK店で温度を上げる04 CLOSE次へ運ぶ
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TYPEフウカ 23歳
写真系の専門学校を出たばかりのアシスタント
PLACE現場
現場レポ
HOOK現場感を
そのまま読む

「本日をもちまして、今シーズンの営業を終了いたします。ひと夏のご利用、ありがとうございました。」

片瀬海岸の海の家の柱に、そう書いた紙がガムテで貼ってあった。手書きのマジックで、「ありがとうございました」のところだけ妙に字がでかい。四隅を留めてあるのに海風で真ん中だけぷくっと膨らんで、紙ごと呼吸してるみたいだった。営業中の札も、氷の旗も、ビールののれんも全部外したあとで、この紙一枚だけがまだ最後の仕事をしてた。八月の終わりの水曜、江ノ島。この店じまいの浜で会った子の話を書く。

この日は、波打ち際でしゃがんで海を撮ってた23歳と連絡先を交換して、それで終わった。成果だけ見ればボウズに近いのに、帰り道の満足度がやたら高かった、っていう変な日。

Scene 01

八月の終わりの片瀬海岸、パラソルが抜けた浜

FIELD MEMO

江ノ島ナンパの入口、現場での空気、会った後の動きまで。場面ごとの温度を拾いながら、アキの現場感をそのまま読む記事です。

片瀬江ノ島の駅を出ると、あの竜宮城みたいな駅舎の前がもう静かだった。お盆の頃はここ、改札から浮き輪が押し合って出てくる駅なのに、今日は改札の音がちゃんと聞こえる。地下道をくぐって片瀬東浜に出たら、景色がひと月で全とっかえされてた。海の家は半分が単管の骨組みだけになってて、畳んだパラソルが束で寝かせてある。砂浜には、パラソルが刺さってた丸い穴だけが等間隔で残ってた。ひと月前はこの穴の一個一個に色付きのパラソルが立って、その下が全部埋まってたはずで、そう思って見ると、砂浜がでかい忘れ物置き場みたいに見えてくる。八月のアタマに海の家のカウンターで隣になった子と喋った回を書いたけど、ああいう店の一軒一軒が今日、店を閉める側になってる。

人はいる。ゼロじゃない。犬の散歩のおばちゃん、砂浜をランニングする部活っぽい集団、階段に座ってソフトクリーム食ってるカップル。ただ、泳いでる人間が一人もいない。ライフセーバーの監視台も片付けられてる。残ってるのは、夏の終わりの海をわざわざ見に来た側の人たちだった。日差しはまだ夏の顔をしてるのに、風だけ先に秋になってて、波打ち際を歩くと足元に夏の残骸がちょいちょい落ちてる。片方だけのビーサン、潰れた麦わら帽子、花火の燃えカス。誰かの夏がそのまま置き去りになってる感じで、拾って届ける先もない。

アキ
アキ

人はいるんだよな。でも全員、海に用がある人じゃなくて、海のそばに用がある人だわ

コウ
コウ

俺、八月に行って人しかいなかったんすけど

アキ
アキ

今日はその人が全部抜けたあとだったわ。夏の取りこぼしを拾いに行ったら、残ってる側のほうが濃かった

海沿いの街は日が落ちた瞬間に人が消える、っていうのは茅ヶ崎の海岸通りを歩いた日に思い知ってる。終わりかけの片瀬はもっと先を行ってて、昼のうちから、片付けの音のほうが大きかった。だから今日は夜まで粘るプランは最初からなくて、明るいうちが全部だと決めて浜に降りた。

Scene 02

波打ち際で、しゃがんで海を撮ってる子がいた

最初に声をかけたのは、階段の下でスマホを代わる代わる構えて自撮りしてた二人組だった。トートバッグにサンダルで、いかにも夏の締めの一枚って感じ。「良かったら二人のやつ、撮りましょうか」って寄ったら、

自撮りしてた子

あ、大丈夫です(笑)ありがとうございます、もう出るとこなんで

自撮りしてた子

笑顔ではあったけど、つま先はもう完全に駅の方を向いてた。りょうかいです、良い夏の締めを、って返して離れた。店じまいの浜でしつこくしても仕方ないんで、こういうのは二言で切り上げて次に行く。振られたっていうより、閉店間際の客に時間切れを告げられた感じに近かった。今日はそういう日なんだと思いながら、砂の上を海側に降りた。そこで、その子が目に入った。

最初、具合の悪い人かと思った。波が引いたあとの濡れた砂のところに、黒い服の子がしゃがみ込んで動かない。よく見たら首からカメラを提げてて、砂スレスレの低さでレンズを海に向けてる。引き波が砂の上に残す泡のスジを、消える前に押さえてるっぽい。しゃがんだまま数十秒固まって、立って、三歩横にずれて、またしゃがむ。波が来るギリギリまで粘って、スニーカーが濡れる寸前でぴょんと後ろに下がる。それをずっと繰り返してた。動きに一切の迷いがなくて、たぶん本人の中に「ここで撮る」の地図がある。人の減った浜で、その動きだけがずっと目立ってた。

声をかけるかは少し迷った。ただ、撮ってる最中に横から割り込むのだけはナシだなと思って、シャッターの切れ目待ち。数メートル離れた波打ち際で、順番待ちみたいに突っ立ってた。我ながらだいぶ不審だったと思う。笑 彼女がカメラを下ろして立ち上がって、腰をぐっと伸ばしたタイミングで、背中側からじゃなくて視界の端に回り込んでから声をかけた。嫌がられたらすぐ下がる前提で、口調は軽く。

アキ
アキ

すいません、撮ってるの邪魔したくなくて切れ目待ってました。それ、何撮ってたんすか

フウカ

……え、穴です

フウカ
アキ
アキ

穴。

フウカ

パラソルの跡の穴(笑)点々って並んでるの、今日で消えるんで

フウカ
アキ
アキ

あー…。言われてみれば確かに、明日には均されてるのか。それちょっと見せてもらったり

フウカ

それはダメです

フウカ
アキ
アキ

即答じゃん。笑

フウカ

撮ったのは、すぐは見せないんです。誰にも(笑)

フウカ

断り方に嫌な感じがなくて、迷惑がってるっていうより、ただそういうルールなんだな、って言い方だった。んで、例の貼り紙の話をした。あそこの海の家、今日で終わりらしいっすよ、って。そしたら「知ってます。あの紙も撮りました」って。俺が今日いちばん最初に読んだあの紙、この子の中にはもう仕舞われてるのか、と思ったらなんか面白かった。近くで見るフウカは、キャップに黒Tにカーゴパンツで、日焼けは腕だけ。首から下げたストラップは色が抜けるまで使い込まれてて、道具だけ妙に年季が入ってた。

Scene 03

しゃがんだまま喋る、フウカ23歳

名前はフウカ。23歳。今年の春に写真系の専門学校を出て、都内のスタジオでアシスタントをやってるって言ってた。今日は仕事で来てるのか聞いたら、

フウカ

今日は完全に休みです。自分のを撮りに来ただけ(笑)

フウカ
アキ
アキ

よかった。仕事中の人だったら、挨拶だけして引っ込むしかなかったわ

フウカ

邪魔される前提なんですね、私(笑)

フウカ

って笑ったあと、少しだけ間があって、真顔でこう来た。

フウカ

ていうかこれ、ナンパですか?

フウカ
アキ
アキ

……半分は。もう半分は、真顔で穴を撮ってる人が気になっただけ

フウカ

半分なんだ(笑)

フウカ

アシスタントって普段なにやるの、って聞いたら「運搬と、掃除と、電池の番人です」って真顔で言った。現場では一日誰かの後ろで機材を持って、自分のシャッターは一枚も切らずに終わる日ばっかりらしい。専門の同期も、半分くらいは写真と関係ない仕事に行ったって。それでも辞めたい感じはまったくなくて、「電池の番人、意外と向いてるんで」って笑ってた。だから休みの日にこうやって、自分の写真だけを撮りに来る。行き先に選んだのが、シーズンの終わったパラソル跡だらけの浜。変わってる。ちょっといいなと思った。

喋ってる途中でも、フウカは急に「あ、ちょっと待って」って言ってしゃがむ。しゃがんだまま、会話は普通に続く。俺だけ立ってて、遠目に見たら完全に妙な絵だった。

アキ
アキ

これ、しゃがんでる人を上から見下ろして喋ってる俺、はたから見たら職質だな

フウカ

(笑)じゃあしゃがんでください

フウカ

で、しゃがんだ。波打ち際で、いい歳した男と23歳が並んでしゃがんで、どっちも海を見てる。傍から見たら意味の分からん絵。でも目線が下がった瞬間に波の音がでかくなって、濡れた砂の匂いがして、ああ、この子が一日見てる世界はこっちか、ってなった。ちなみに俺は三分で膝が限界になって、先に音を上げた。フウカはこれを何時間もやってる。情けな。笑

アキ
アキ

なんで撮ったのすぐ見せないの。普通、撮ったら見せたくなるじゃん

フウカ

選んでないやつは、まだ写真じゃないんで

フウカ
アキ
アキ

……かっこいいこと言うじゃん

フウカ

学校の先生の受け売りです(笑)

フウカ

受け売りです、って自分でバラして笑うのがこの子だった。かっこつけてるんじゃなくて、ほんとにその手順で写真ってものをやってるだけ。撮ったそばからスマホで見せ合う遊びしか知らない俺には、撮った本人がいちばん最後まで見せない、っていうのが新鮮だった。あと、この子とは喋らない時間がけっこうあった。波が寄せて引いて、フウカのシャッターが鳴って、スニーカーが濡れた砂を擦る。

Scene 04

弁天橋を渡る。店じまいの江ノ島

日が傾きはじめた頃、フウカが立ち上がって、島の方を指した。

フウカ

島側も撮りたいんで移動します。閉まってく店、今日しか撮れないんで

フウカ
アキ
アキ

それ、荷物持ちいります?

フウカ

……荷物、レンズ一本しかないですけど(笑)

フウカ

いいですよ、とも、来ないでください、とも言われないまま、気づいたら並んで弁天橋を渡ってた。歩行者用の橋は海風がまともに抜けて、フウカのキャップが二回飛びかけた。橋の途中で彼女は三回しゃがんだ。欄干の影とか、床の錆とか、ヨットハーバーの帆が下ろされてくところとか、俺一人だったら一生カメラを向けないものばっかり撮ってた。いま何撮ったのか聞いても、「内緒」って笑うだけ。俺はレンズ一本の入った小さいトートを持たされてて、荷物持ちの初仕事がこれだった。橋の途中で振り返ると、さっきまでいた浜が遠くて、あの貼り紙ももう見えなかった。

島に渡ると、参道は「終わり」の作業中だった。夏季限定ののぼりを外してる店、店先の氷の旗を畳んでる店、シャッターが半分下りた店。観光客はそれなりにいるのに、お盆のあの人口密度とは別物で、歩く速さも音も全部ゆるい。フウカはその「片してる最中」ばっかり選んで撮ってた。まだ開いてた売店でラムネを二本買って、一本渡した。百何十円で恩を売った。笑 会計のとき、売店のおばちゃんに「うちも今日までなのよ」って言われて、フウカと顔を見合わせた。今日この島、どこもかしこも最終日だ。二人して階段の日陰に座って、ラムネ飲みながら、のぼりが一本ずつ抜かれてく参道をしばらく黙って眺めてた。

フウカ

ラムネ、たぶん小学生ぶりに飲みました(笑)

フウカ

んで、俺がラムネのビー玉を落とすのに苦戦してたら、横でカシャッて鳴った。

アキ
アキ

今の俺撮った?

フウカ

撮った(笑)ビー玉に負けてる大人

フウカ
アキ
アキ

見せてよ

フウカ

選んでから

フウカ

出た、と思った。このやり取り、今日だけでもう三回目。でも不思議と腹は立たなくて、むしろ選ばれる側に回ったんだなと思ったら、ちょっと緊張した。俺の写真、普通にボツになる可能性もあるわけで。ちなみにこの日、俺がフウカを撮ることは最後までなかった。撮っていいか聞く空気に一回もならなかったし、一日ずっと撮る側だった人にレンズを向けるのは、なんか順番が違う気がした。

今年の湘南、空振りも普通にあった。八月アタマに浜で誰とも喋れないまま終わった夜は、結局現場帰りの子とアプリで会った回に流れた。終わりかけの海は、今日みたいに一人ひとりがやたら濃い代わりに、いない日はほんとに誰もいない。

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Scene 05

日が沈んで、海辺の時間が終わった

橋を戻る頃には、空がオレンジと紫の途中の色になってた。花火大会の夜ぶりに、こんなに長く空を見上げてる気がする。富士山は見えそうで見えない、シルエットの手前くらい。フウカのシャッターの間隔はどんどん短くなって、そのぶん口数が減っていった。俺は隣で黙って歩く係。波の音と、シャッターの音と、たまにキャップを押さえる音。それだけで会話が成立してて、それが全然苦じゃないのが自分でも意外だった。

帰りの橋で、初めてフウカの方から質問が来た。休みの日はいつも何してるんですか、って。人と会ってる、今日みたいに、って答えたら、なにそれ(笑)って笑ってた。嘘は言ってない。そのあと、どこ住みとか、次の休みいつとか、聞こうと思えば聞ける質問が頭に浮かんでは消えた。この子相手に在庫確認みたいな質問を並べたら、この時間ごと一気に安くなる気がして、全部やめた。

浜に戻ると、朝の貼り紙の海の家が、もう柱と屋根だけになってた。フウカはそれもしゃがんで一枚撮って、立ち上がって、帰る空気になった。浜に残ってる人影はもう数えるほどで、海の色が青からほぼ黒に替わりかけてた。ここで連絡先の話をしそこねると、この子の「選び終わった写真」を俺は一生見られない。

アキ
アキ

写真、選び終わったやつ見たいんだけど。その用事だけで連絡先聞いていいすか

フウカ

……ほんとに、写真送るだけですよ(笑)

フウカ

釘の打ち方が的確で笑った。りょうかいです、って受けて、交換はあっさりしたもんだった。ただ、その一瞬だけフウカがちょっと照れてたのは書いとく。カメラを構えてないときの顔は、意外と分かりやすい。そのあと、フウカがぽつっと言った。

フウカ

秋の海も、たぶん撮りに来るんで

フウカ
アキ
アキ

ん、それは誘いって受け取っていいやつ?

フウカ

荷物持ちの予約です(笑)

フウカ

押してどうこうする日じゃないのは、途中から分かってた。この日の別れ際にもうひとつ好きな場面があるんだけど、順番があるんで、先にその後の話をさせてくれ。

Scene 06

俺の写真は、まだ来ない

連絡先を交換したあとの数日、俺の夜はいつも通りアプリの通知を眺めてるだけだった。

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三日後の夜、フウカから連絡が来た。写真が三枚。一枚目が、あの「本日をもちまして」の貼り紙。二枚目が、パラソルの穴が夕方の影で点々と伸びてる砂浜。三枚目が、弁天橋の欄干の影が床に落ちてるやつ。俺が横で一緒に見てたはずの場所なのに、三枚とも知らない場所みたいに写ってた。しゃがんだ高さの世界は、突っ立って歩いてた俺のとは別物だった。特に貼り紙のやつは、紙が風でぷくっと膨らんだ瞬間を押さえてて、俺が朝いちで見た「呼吸してるみたい」がそのまま写ってた。同じもん見て同じこと思ってたのかは、まだ聞けてない。

フウカ

選びました。三枚だけ

フウカ
アキ
アキ

三日かけて三枚は選びすぎだって。笑 でも全部いいわ。貼り紙のやつ、特に

フウカ

あと一枚あるんですけど、それはまだ

フウカ
アキ
アキ

それ俺のやつでしょ。人質じゃん

フウカ

人質です(笑)秋に、返しに行きます

フウカ

ビー玉に負けてる大人の写真は、まだ手元に来てない。「秋に、返しに行きます」が今のところ最後のやり取りで、俺はそれを催促しないで待つことにしてる。急かして送らせても、それは多分あの子の言う「まだ写真じゃない」やつだし。

コウ
コウ

え、自分が写ってるやつだけ来てないんすか。笑

アキ
アキ

そう。催促したら負けな気がして、こっちからは触れてない

で、残しておいた別れ際の話。夕方の浜で、じゃあ、ってなったとき、フウカはその場でしゃがみ直して、暗くなりかけた海を一枚撮った。それから立ち上がって、膝の砂を払って、なんで笑ってるのか分かんない顔でこっちを見た。俺は「選び終わったら呼んでよ。荷物持ちは秋も空いてるんで」って言った。

NEXT ROUTE

現場の次の動きまで見る。

声をかけた後、どの街でどう流すか。場所選びと飲みの入口に近い記事を並べています。

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アキ
ナンパ歴10年ちょい。アプリ・ストナン・相席・遠征までなんでも行く30代。実際に行って出会って、どうなったかをそのまま書いてます。