浦和ストナン文教都市の裏の飲み屋街で、大宮を「あっち」と呼ぶ27歳と
金曜夜の浦和に出動した話。伊勢丹とコルソの駅前は誰も立ち止まらなくて、声かけ3組が全部10秒で終了。作戦を変えて駅裏の古い飲み屋の路地へ。カウンターで隣になったのは、大宮を「あっち」と呼ぶ27歳の営業チヒロ。2軒ハシゴして連絡先交換までの一部始終。
教材出版社の営業READ14分
読了目安HOOK声かけから
次の店へ
窓の外を、川口のマンションの灯りがゆっくり流れてく。金曜の夜の京浜東北線、北行き。この路線で埼玉側に降りるのは川口の路上を歩いた夜以来なんだけど、車内を見回すと、これから飲むぞって顔した集団はまだ誰も降りる気配がない。行き先はたぶん、みんな終点方面の大宮。俺は今日、その4駅手前で流れに逆らって降りる。浦和。
で、路上の声かけは3組やって全滅だった。1組10秒ももたない、気持ちいいくらいの完敗。それでも帰りの上り電車で普通にニヤけてたのは、駅裏の路地の酒場で隣になった27歳のせい。派手なことは何も起きてない。起きてないのに、妙に満足度の高い夜だった。
大宮まであと4駅で降りる金曜
浦和のイメージって、たぶん「落ち着いてる」で9割合ってる。駅前に伊勢丹とコルソ、通りはきれいで、埼玉の文教都市。県内で「住みたい街」って言われ続けてる住宅街で、あとはサッカーの街。派手な歓楽街らしい歓楽街はなくて、ギラギラ飲みたい人は電車ですぐの大宮に流れる構造になってる。
大宮は前に行った。南銀座通りで声かけした夜は、客引きの声が飛び交う中で空振りを重ねて、20時前後は出勤前の波に滑り続けて、最後は仕事終わりの23歳のアパレル店員に「ナンパ?」って先回りされてから立ち飲みに転がり込んだ。ああいう「夜の路上に人が滞留してる街」は、声かけがそのまま試合になる。
じゃあ浦和はどうなのか。行く前から分かってた範囲だと、こう。
| 項目 | 大宮 | 浦和 |
|---|---|---|
| 街の雰囲気 | 東口に南銀の歓楽街。夜が長い | 伊勢丹とコルソの上品な駅前。夜は家に帰る流れ |
| 動き方 | 路上の声かけがそのまま成立する | 路上は止まらない。裏の酒場で隣になる |
| 向いてる夜 | 金曜21時以降、仕事終わりの波 | 金曜でも勝負は店内。外はほぼ無理筋 |
つまり浦和は、路上で止める街じゃない。じゃあ何しに行くんだって話なんだけど、飲み屋がないわけじゃないんだよ。駅の裏手に、古い酒場がぎっしり詰まった細い路地がちゃんと残ってる。派手な看板の代わりに赤提灯。だったら勝負する場所を路上からカウンターに移せばいい。声をかけるんじゃなくて、隣になる。今日はそれを確かめに来た。

アキさん、最近の出動先、埼玉率高くないすか。大宮、川口ときて今度は浦和て。

数えたらそうなってた。笑 でも埼玉、駅ごとに街の顔が違いすぎて飽きないんだわ。浦和は中でも一番「夜遊びの匂いがしない駅」なんで、逆に見に行く。
伊勢丹前もコルソ前も、止まる人がいない
19時半、浦和駅着。西口を出るとすぐ伊勢丹で、その並びにコルソ。人通りは普通にある。あるんだけど、5分歩いて気づいた。全員、まっすぐ歩いてる。
信号でスマホを見て立ち尽くす人、店を探してうろうろする人、誰かを待って壁際にいる人。ああいう路上の「淀み」が、この駅前にはほとんどない。仕事帰りの人は改札からバスロータリーか住宅街の方向へ一直線。買い物帰りも一直線。塾のバッグを背負った学生が多いのが、なるほど文教都市。大宮の駅前が「川のところどころに淵がある」感じだとしたら、浦和は全部が流れてる。淵がないと、魚は止まらない。
それでも一応、試した。一組目、コルソの前でスマホを見てた子。「このへんでまだやってる定食屋って」まで言ったところで「あ、待ち合わせなんで」。終了まで8秒くらい。しかも言い終わる前にもう歩き出してて、悪意ゼロのまま俺だけがその場に残された。二組目、信号待ちの二人組。「今から飲みなんですけど」まで言ったところで信号が青になって、二人はイヤホンを付け直して渡っていった。青になった瞬間の、あの一斉に動き出す背中の壁よ。三組目は仕事帰りっぽい一人の子で、「あの」まで言ったところで目が合って、会釈だけ返されてすれ違った。感じは悪くない。むしろ礼儀正しい。ただ、止まる理由がこの街のどこにもない。

3組で会話の合計30秒切ってると思う。嫌われてるんじゃなくて、風景として処理されてるわ、これ。
追いはしない。家に向かって歩き続けたい人の隣に並び続けるのは、声かけじゃなくてただの通せんぼなんで、俺は二声目を重ねない。断られたら即その場で終わり。それをやった上で言うけど、浦和の路上は大宮の空振りとは種類が違った。大宮は「タイミングが悪い」、浦和は「場所が違う」。予定通り、勝負を店内に切り替える。間を置かずに金曜と土曜は同じ週末じゃない、って話から始まる早見表の回で住宅寄りの列を塗るとき、いちばん参照した夜がこれで、金曜の20時台が「店の中」になってるのは、この駅前の全員がまっすぐ歩いてたからだわ。
時計を見たら、路上に使った時間は35分だった。増えたのは歩数だけ。こういう路上が渋い夜の逃げ道で、埼玉に出るときはイククルも並行で開けてる。
- 会員数が多いから、地方都市でも「動ける子」が見つかりやすい
- 掲示板文化が残ってて、その日の予定で募集がかかるのが面白い
- 登録無料。プロフ検索だけでも土地勘がつかめる
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裏の路地の赤提灯で、隣から「それ、にこみ」
伊勢丹の脇を抜けて一本裏に入ると、道幅が急に狭くなって、赤提灯と手書きの看板が始まった。低い建物に小さい店がぎっしり。表の浦和が背筋を伸ばした顔だとしたら、裏のここは完全に酒の顔をしてる。歩いてる人の速度も、表よりワンテンポ遅い。ここにはちゃんと淀みがあった。
角の店の引き戸から先客が出てきて、その後ろにカウンター8席くらいの店内が見えた。煮込みの湯気と醤油の匂いが路地まで漏れてきてて、腹が鳴った。壁一面に短冊メニュー、小さいテレビ、年季の入った大将。柱にサッカーのポスターが貼ってあって、赤いユニフォームが額に入って飾られてる。浦和に来たんだなって一番実感したのはこの額だった。空いてた真ん中の席に座って、ホッピーを頼む。35分風景として扱われたあとの一杯目、しみた。
隣、ひとつ空けた先に、仕事帰りっぽい女の人が一人で座ってた。ジャケットを椅子の背にかけて、瓶ビールを手酌でやりながらテレビを見上げてる。落ち着き方が完全に常連のそれ。俺はというと、壁の短冊と格闘してた。達筆すぎて解読できない札が3枚ある。視線に気づいたのか、隣から声が飛んできた。
それ「にこみ」ね。初見で読めたら常連(笑)


助かりました、暗号かと思ってた。じゃあそれで。……すいません、注文まで便乗して。
いいよ。ここのにこみ頼んで外した人、見たことないし。


常連さんなんですか。
金曜だけね。ここで一杯やって帰るのが金曜のしめ。

にこみを運んできた大将が「チヒロちゃん、今日も学校まわりだったの」って聞いてて、彼女が「そう。3校ハシゴ」って返してた。名前はチヒロさん。教材の出版社の営業で、市内の学校を回るのが仕事らしい。浦和は学校が多いから、担当エリアがほぼ地元で完結するんだと。カウンターの店って、大将が名前も職業も勝手に開示してくれるから、自己紹介の工程が丸ごと省略される。路上じゃあんなに遠かった浦和の人が、ホッピー1杯の間に隣まで来てた。
だから俺も、変に隠さないことにした。

俺、東京から来たんですよ。大宮と迷って浦和で降りてみたら、駅前で誰も立ち止まってくれなくて。
なにそれ(笑) ナンパってこと?


でした。3組で終戦です。
浦和で路上は無理でしょ(笑) 道は歩くとこで、店は喋るとこ。ここ、それがはっきりしてる街なの

俺が35分かけて足で覚えたことを、一言で言われた。ぐうの音も出ないでにこみを食ってたら、彼女がニヤッとしてこっちを見た。
てか、あっちと迷ってこっちを選んだんだ。ふーん。偉いじゃん(笑)

出た。大宮が「あっち」になった。
大宮を「あっち」って呼ぶ人だった

今、大宮のこと「あっち」って言いました?
言うよ。……あ、浦和の人みんなが言うわけじゃないよ。私が言うだけ(笑)


同じさいたま市になったじゃないですか。
合併したのは書類の上ね。心はまだ(笑)

嫌味な感じは全然なくて、地元の話になった途端に目が生き生きし始めるタイプだった。そこからの浦和プレゼンが良かった。
てかさ、県庁ってどっちにあると思う?


……駅の規模で考えたら大宮?
浦和です〜。それ、みんな間違えるの。地味に悔しい(笑)


でも駅と繁華街がデカいのはあっ……
デカさで勝負してないの、こっちは(笑) あと今「あっち」って言いかけたでしょ。


移った。笑 30分で移るんだ、これ。
サッカーの話も振ってみた。試合の日は街が赤くなるって聞いたことがあったから。
赤くなるよ。駅からスタジアムまで人の川。私は家から出ない日だけど、負けた日はうちの父親が静かになるからすぐ分かる(笑)

試合結果が家庭の空気に直結する街。額のユニフォームといい、看板猫ならぬ看板クラブというか、街の装備品にサッカーが組み込まれてる。大将もこの流れだけテレビから目を離してうんうん頷いてて、カウンター全体がゆるく同じ話に参加してる感じがあった。仕事の話も聞いた。営業のアポは学校のチャイムが基準で、「5時間目のうちに次の学校へ移動」みたいな時間割で1日が回るらしい。職員室の空き時間を狙って教頭先生の機嫌を読む、みたいな渋い技術の話を、瓶ビール片手にする27歳。だから今でもチャイムを聞くと背筋が伸びるって笑ってた。
路上で全滅した話をもう一回したら、真顔で返された。
でも私たち、今普通に喋ってるじゃん。ここ、店の中だし(笑)

彼女の手酌のペースと俺のホッピーのペースが、いつの間にか揃ってた。にこみは大将の言う通り、確かに外してなかった。
階段の上の2軒目で、敬語が取れていく
大将の店は23時まで。看板のタイミングで会計になって、ここで解散の流れかなと思ってたら、チヒロさんが上着を羽織りながらこっちを見た。
もう一軒だけ行く? どうせ私、家まで歩いて5分だし。

行きます、って食い気味に答えてた。連れてってもらったのは同じ路地の奥、細い階段を上がった2階の店。外階段の途中に小さい看板が出てるだけで、知らなきゃまず上がらないやつ。ドアを開けた瞬間、カウンターの中のママさんが「あら、チヒロちゃん」。2軒連続で名前を呼ばれる27歳。棚にキープボトルがずらっと並んでて、そのうちの一本を指差して「あれ、うちの父親の」って言われたときは吹いた。この路地、家族単位で狭い。
この街、狭いの。どこ入っても誰かしらいる。中学の同級生と月イチでばったりよ。


悪いことできないっすね。
できない(笑) だからみんな行儀いいんだと思う。

2軒目に入ったあたりで、気づいたら俺の敬語のほうが取れてた。歳は27で、生まれも育ちも浦和。新卒の1年だけ中野に住んで、通勤30分なら実家圏内でよくない?って気づいて戻ってきたらしい。全国の一人暮らし勢が泣く結論を、こともなげに言う。
あと、うなぎはこっちのほうがうまいし(笑)

うなぎ。そういえば浦和はうなぎの街でもある。駅の周りに老舗が何軒もあって、蒲焼きの匂いで飯が食える。

浦和のうなぎ、実は食ったことないんだよな。
もったいな。……いいよ、今度案内したげる。奢りなら(笑)


初対面でうなぎたかられてるんだけど。笑
たかってない、案内料込み(笑)

時計が23時40分を回ったところで、チヒロさんが「終電平気?」って俺の側の心配をしてきた。自分は徒歩5分のくせに。スマホの乗換案内をこっちに向けて「これ逃すとまずいやつ」って教えてくれるのが、営業の人の段取り力って感じで笑った。LINEはこの流れで交換した。うなぎの件が立ってる以上、交換しない理由がなかった。QRを読み込む数秒、ママさんがニヤニヤしながらグラスを拭いてたのは見なかったことにした。
終電2本前の上りホームまで
店を出ると、路地にはまだ半分くらいの灯りが残ってた。表通りに出た瞬間、街の音量がすっと下がって、また文教都市の顔に戻る。この切り替わりの一本の差、ちょっとクセになる。チヒロさんとは路地の出口で別れた。
じゃ、私あっち……じゃなくて、こっち方向だから(笑) 気をつけて帰んなよ。


路上全滅の夜のはずだったのに、めちゃくちゃ楽しかったわ。
それは大将のにこみのおかげ(笑) じゃあね。

ひらひら手を振って、住宅街の方向に消えてった。帰り方までマイペースな人だった。
改札を抜けて時刻表を見たら、上りは終電の2本前だった。浦和から都内までは京浜東北線で30分ちょい。隣町の感覚で来られるこの距離なら、路上が全滅する街だと分かった上でまた来るのも全然ある。ちなみに埼玉方面の子とアプリで会うときに俺が開いてるのはイククルで、一通り使ったときのレビューも前に書いた。
- 会員数が多いから、地方都市でも「動ける子」が見つかりやすい
- 掲示板文化が残ってて、その日の予定で募集がかかるのが面白い
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ホームで数分待って乗り込んだ上り電車は、行きの下りの熱と真逆でガラガラだった。向かいの窓に、2軒ぶんゆるんだ顔の俺が映ってる。路上3連敗の男の顔ではない。シートに沈んだところでスマホが震える。
もう家。笑


徒歩5分、ガチだったんだ。俺まだ蕨。
うなぎの件、忘れないでね(笑) おやすみ。

案内料込みのうなぎ、たぶん高くつく。窓の外を、行きに見た川口のマンションの灯りが、今度は逆向きに流れていった。
現場の次の動きまで見る。
声をかけた後、どの街でどう流すか。場所選びと飲みの入口に近い記事を並べています。


