柳ケ瀬と玉宮町、名古屋から30分の夜
金曜の夜だけ、名古屋から岐阜へ。柳ケ瀬のアーケードは古いご当地ブルースが流れてて、玉宮町通りは22時に人が路上へあふれる。声かけは3回、うち1回はしっかり塩。3回目に満席の立ち飲みの前で隣に立った雑貨屋のコハル(24)と2時間。時間帯ごとの通りの顔も表にした。
雑貨屋の店員PLACE名古屋
現場レポHOOK現場感を
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柳ケ瀬のアーケードに入って十歩くらいで、頭上のスピーカーから古い歌謡曲が降ってきた。こぶしの回る、どう聞いても昭和の曲。歩きながら聞いてると、曲の中で何回も「柳ケ瀬」って言ってるのが分かって、つまりこの通り、自分の曲を自分で流してる。あとで調べたら「柳ケ瀬ブルース」っていう60年前の大ヒットで、この街の名前を全国に運んだ一曲らしい。金曜の21時、その曲の下を、仕事帰りのスーツと、これから飲みに行く格好の若い子たちが同じ速度で歩いてた。
名古屋の用事が金曜の昼で終わって、帰りを一日ずらして岐阜に一泊足した。栄を歩いた二晩の記録を書いた出張の、そのおまけの晩。地図で見たら岐阜って名古屋からJRの快速で20分かからなくて、名鉄でも30分。で、金曜の夜だけ、柳ケ瀬ブルースの下を歩いた。あとは駅寄りの玉宮町通りと、その二本からそれぞれ一本入った路地。それだけの晩。
柳ケ瀬のアーケードは、シャッターの隣で新しい店が開いてる
岐阜ナンパの入口、名古屋での空気、会った後の動きまで。場面ごとの温度を拾いながら、アキの現場感をそのまま読む記事です。
JR岐阜駅の北口を出ると、金色の信長像が立ってる。夜はライトが当たってて、待ち合わせの数組が像の下でスマホを見てた。そこから北へまっすぐ、15分弱歩くと柳ケ瀬。屋根付きのアーケードが何本も交差してて、中に入ると天井が高くて、声が上に抜ける。
で、冒頭の曲。スピーカーの下で足が止まって、しばらく突っ立って聞いてた。同じ立ち止まり方を、この前の長野・権堂の夜でもやってる。あっちは屋根の下に鳥居があって足が止まった。こっちはスピーカー。アーケードって、どの街も一個は「なんだこれ」があるらしい。

柳ケ瀬って、うちのじいちゃんがカラオケで入れてた曲のとこっすか

それ。現地、いまだにアーケードで流れてるわ。地元が一番使ってる。
通りの中身は、時間が二重になってる。閉まったシャッターが続いたと思ったら、その隣にコーヒースタンドの灯りがあって、クラフトビールの黒板が出てて、古着屋のラックが半分通りにはみ出してる。角には百貨店だった大きい建物が、看板を下ろしたまま暗く立ってた。昭和の商店とシャッターと若い店が、同じ屋根の下に一列に並んでる。それを事実として歩くだけで、けっこう忙しい。

シャッター、シャッター、コーヒー屋、シャッター、クラフトビール……目が忙しいなこの通り。
夜の柳ケ瀬の本体は、アーケードの屋根の下じゃなくて脇の路地にあった。屋根の下から路地へ一歩出た瞬間に天井が消えて、急に夜が高くなる。両側は曇りガラスのドアばっかりで、スナックなのかバーなのか、名前が読めるのは半分くらい。21時を回ると、その曇りガラスの向こうが一枚ずつ明るくなっていく。路地の口ではタクシーが一台、ハザードを点けたまま待ってた。屋根の下を歩いてるだけだと、この街の夜の店の数はまるで見えない。
金曜の玉宮町通り、22時の路上
柳ケ瀬から駅のほうへ戻ると、途中に玉宮町がある。駅から歩いて5分ちょっとの飲み屋街で、通りの名前は玉宮通り。ここが金曜の岐阜でいちばん若い場所だった。
21時台は、どの店も中から声が漏れてるだけで、路上はまだ普通の道。それが22時を過ぎると人が外にあふれてくる。一次会が終わった集団が店の前で円を作って、次どこ行くかを路上で決めてる。半分スーツで半分私服、年齢層は20代が厚い。客引きらしい客引きは、俺が歩いた範囲だとほとんどいなかった。声の量だけで言えば、名古屋の栄の路地より密度が高い瞬間すらある。通りが短いから、音が全部そこに溜まる。

交差点の信号待ちで顔を上げたら、山の上に城がライトアップされてるんだけど。飲み屋街から城が見える街、初めてかも。
長良橋通りの信号待ちで見えたのは金華山の岐阜城で、22時の時点ではまだ灯りが点いてた。コンビニの前で水を飲みながら、レシートの裏にボールペンで通りの名前と時間を書いた。宿に戻ってから、それを打ち直したのがこの表。
| 通り | 21時すぎ | 23時すぎ | 歩いてた人 |
|---|---|---|---|
| 柳ケ瀬アーケード | シャッターと新しい店の灯りが半々。頭上で曲が流れてる | 屋根の下は静か。人は脇の路地へ吸われていく | 飲みに向かう数人と、店じまいの人 |
| 柳ケ瀬の脇の路地 | 路地の奥から手前へ灯りが点いてくる | 出入りが増える。路地の口でタクシーが待つ | 年齢層は上。ネクタイと同伴っぽい二人連れ |
| 玉宮町通り | 店の中から声が漏れてる。路上はまだ道 | 路上に人があふれる。店の前で次を決める円ができる | 20代が厚い。スーツ半分、私服半分 |
| JR岐阜駅前(信長像の下) | 待ち合わせが数組。像を見上げる観光の人が少し | 帰る人がバス乗り場とタクシー列に分かれる | 立ち止まる人より通過する人 |
| 長良橋通り | 移動の道。信号待ちで山の上の城が見える | 車が減って自転車が増える | 歩いてる人はまばら |
玉宮で2回ふられた、23時
22時40分、コンビニの前の信号で隣になった二人組に声をかけた。締めのラーメンってこの辺だとどこなんですか、って入り方。一人はこっちを見ずに「知らないです」で、もう一人はスマホから顔を上げなかった。信号が青になって、それで終わり。しっかりした塩だったけど、金曜の23時前に知らない男から店を聞かれる側になったら、俺でも同じこと言うと思う。
10分後、店の前で一人で立ってる子がいた。中を覗いたり、通りの先を見たりしてる。並んでるんですか、って聞いた。
あ、待ち合わせです。もう来るんで(笑)


ですよね。金曜の玉宮、一人でいる人のほうが少ないわ。お邪魔しました。
店の中で乾杯の声が一回上がるあいだに終わった。会釈が丁寧だったから、こっちも丁寧に引いた。時計は23時で、手持ちはゼロ。腹も減ってきて、どて煮の匂いのする路地で立ち止まって、今夜の輪郭がだいたい見えた気になってた。
保険はもう一本だけあった。木曜の夜、名古屋のホテルで、地方に出るとき用に使ってるイククルのプロフを一行だけ書き換えてあった。「金曜の夜だけ岐阜」。返ってくるかは向こう次第で、この時点の俺の画面はまだ静かだった。
- 会員数が多いから、地方都市でも「動ける子」が見つかりやすい
- 掲示板文化が残ってて、その日の予定で募集がかかるのが面白い
- 登録無料。プロフ検索だけでも土地勘がつかめる
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
満席のガラスの前、隣に紙袋が立った
23時すぎ、玉宮の通りから一本入った角に、ガラス越しに中が見える立ち飲みがあった。カウンターに肩が並んでて、隙間がない。入るか諦めるか、ガラスの前で首を伸ばしてたら、隣に紙袋が立った。雑貨屋のロゴの入った紙袋を提げた子が、俺と同じ角度で中を覗いてる。

満席ですね。これ、待ってたら空くやつですか。
金曜は無理やよ(笑)ここ狭いもん


常連の顔だ。じゃあこの近くで、今から入れる店って一軒あります? 俺、岐阜が今日初めてで。
ほう……。んー、一軒だけ、たぶん空いとる


助かります。場所、どっちですか。
口で言うても分からんて。初めてでもう玉宮おるし(笑)……うちも一杯だけ寄って帰るとこやったし、ついといで

連れて行かれたのは、二本裏の路地の、酒屋の角打ちみたいな立ち飲みだった。瓶ビールのケースが椅子代わりに積んであって、カウンターの中は大将が一人。
あ、今日は瓶だけやって


じゃあ瓶で。むしろ瓶がいいです。
店の中は、ガラス越しに覗いてた立ち飲みとは別の生き物だった。古い冷蔵ケースが低くうなってて、壁のホワイトボードに「本日 瓶のみ」の走り書き。ビールケースの椅子はケツに角が当たるんだけど、満席の店の前で首を伸ばしてた身からすると、この静けさごと当たりだった。こういう店、東京だと探しても出てこないんだよな。
コハルは仕事帰りだった。柳ケ瀬のほうの雑貨屋で働いてて、今日は棚替えで遅くなったらしい。紙袋の中身は検品で弾いたやつ。
ハロウィンの検品しとった。8月やよ?(笑)


早いな。じゃあクリスマスはいつ始まるの。
10月。ハロウィンとツリー、一回同じ棚におるよ

東京から来て名古屋経由で岐阜、って話をしたら、返事が「ほう」だった。それも一回じゃない。
……あ、うち今「ほう」って言ったやろ。東京の人と喋っとると自分でも気になるわ


え、自分で分かってるんだ。俺、こっそり数えてたのに。4回目。
数えんといて(笑)ばあちゃんもお母さんも言うもん。「そうやよ」やなくて「ほうやよ」


そうだよ、が、ほうやよ。……いいな、それ。俺が言うと嘘くさいんだろうな。
嘘くさい(笑)

一本目のぶんは俺がカウンターに置いたけど、二本目は自分で払うと言って聞かなくて、財布を出した。そのとき、ちりん、って鳴った。カウンターの上に置かれた財布に、小さい鈴がついてる。

今の、財布が鳴った?
お守りの鈴。伊奈波さんの


金運のやつ?
落とした時に音で気づくやつ(笑)二回落としとるもん、うち


落とす前提の運用なんだ。笑
そこからの2時間は早かった。鵜飼の話を振ったら「やっとるよ、うち行ったことないけど」って返ってきて、俺がスカイツリーに登ったことないのと同じやつだった。岐阜の喫茶店のモーニングの話になったときが、いちばん声が大きかった。コーヒーを頼むと勝手にトーストが来る、断り方は知らん、土曜の朝は喫茶店が家族で埋まる。全部「ほう」じゃなくて早口……でもなくて、コハルはずっと同じ速度で、同じ温度で喋る。それが妙に楽だった。
岐阜来たならモーニング行かなあかんよ。次来たら連れてったる


次があること、いま決まったんだ。笑 行くわ。小倉トーストってやつが気になってる。
ほう(笑)分かっとるやん

1時前に大将が「そろそろね」って言って、外に出た。コハルは店の脇に停めてた自転車を押して、長良橋通りの交差点まで一緒に歩いた。LINEはその信号待ちで交換した。山の上の城はもう灯りが落ちてて、言われないと分からない黒さだった。別れ際、自転車が動き出すときに、ちりん、って鳴った。財布か、自転車のほうか、どっちの鈴かは分からなかった。
木曜のうちに岐阜へ着いてた、掲示板の書き込み
時間を一日戻す。木曜の夜、名古屋のホテルで翌日の岐阜を決めたとき、プロフの書き換えと一緒に掲示板にも一本だけ書き込んでた。金曜の夜に岐阜にいる、玉宮あたりで一杯だけ付き合ってくれる人いたら、くらいの文面。この一行を書くのに5分固まって、結局イククルの掲示板の使い方を自分で開いて読み直した。過去の俺が、書き出しの型まで書き残してた。

……俺が俺の記事に助けられてる。笑
先に書いとくけど、イククルは18歳未満と高校生はそもそも登録できないし、免許なりで年齢確認を通すまでは書き込みも送信も動かない。俺は最初の登録のときに済ませてあるから、木曜の夜は書くだけで済んだ。
返ってきたのは二件。一件は「日曜なら空いとるよ」で、俺の岐阜は金曜だけだったから噛み合わなかった。もう一件は土曜の朝、帰り支度をしてる最中に届いて、開いた頃には向こうの金曜も終わってた。岐阜で動かした分は、書き込みと返信で缶ビール二本ぶんくらいのポイント。何にいくら消えるかの内訳はイククルのレビューに全部並べてある。
つまり今回、画面の中は二件とも空振りで、実際に隣に人が立ったのは立ち飲みの前の一回だけ。それでも地方の金曜は、着く前の晩にこの一本を起こしてから歩き出すのが、いつのまにか俺の順番になってる。
東京に戻って、コウに柳ケ瀬の話をする
プロフに足した「金曜の夜だけ岐阜」の一行は、東京に帰った月曜に消して、また元の一行に戻した。
- 会員数が多いから、地方都市でも「動ける子」が見つかりやすい
- 掲示板文化が残ってて、その日の予定で募集がかかるのが面白い
- 登録無料。プロフ検索だけでも土地勘がつかめる
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
コハルとは、LINEが続いてる。週明けに来たのは財布の写真で、あの鈴が根元から取れたらしい。「初詣まで鈴なしで生きる」って。落とし物対策が先に落ちてどうすんだ、って返したら「ほうやよなあ」って戻ってきた。モーニングの店は、名前だけもう送られてきてる。小倉トーストがバターごと分厚いらしい。まだ行けてない。
それから2週間して、東京。仕事帰りにコウと、ガード下の狭い居酒屋にいた。壁のメニュー札が油で飴色になってるような店。瓶ビールを頼んだら、岐阜のあの夜も瓶しかなかったのを思い出して、そのまま柳ケ瀬の話になった。アーケードで60年前の自分の曲が流れてる話、シャッターの隣のクラフトビールの話、相槌の話。

相槌が「ほう」って何すか。面接っすか

俺も最初そう思った。岐阜の言葉なんだよ。「そうだよ」が「ほうやよ」。ばあちゃんの代からだって。

いいなあ、そういうの。連れてってくださいよ、その立ち飲み

瓶しかない夜があるけどな。あと金曜は最初の店に入れない。それも込みで良かったんだよ。
コウのグラスに瓶を傾けながら、金曜の玉宮の、22時に人が路上へあふれてくるあの感じを思い出してた。モーニングの店の名前も、角打ちの路地の曲がり方も、もう頭に入ってる。次に金曜が空いたら、俺がコウを連れて岐阜まで行く。
名古屋の次の動きまで見る。
声をかけた後、どの街でどう流すか。場所選びと飲みの入口に近い記事を並べています。


