梅田のクラブ体験談連れとはぐれて一人になってた子と、終電のあとまで
大阪遠征の金曜、梅田のクラブで22時に名前だけ聞いて離れた子と、23時過ぎにまた会った。連れの彼とはぐれて、壁際で一人で飲んでいた九州出身のスミカ。二人で人混みをかき分けて連れの彼を探した先で、思ってもいない頼みごとをされて、気づけば終電は過ぎていた。
九州から大阪へ転勤して1年目の化粧品メーカーの営業 PLACE梅田
現場 HOOK現場感を
そのまま読む
背の高い男に頭を下げられて、「今日、あいつと一緒にいてやってほしいんです」と頼まれた。梅田のクラブの、トイレへ降りていく階段の踊り場。言われた中身がうまく飲み込めなくて、一回聞き返してる。その男の名前を、俺は最後まで聞かなかった。聞く前に、向こうが出口の階段を上がっていった。
「あいつ」は、その夜に二回話した子のことだった。一回目は22時で、名前を聞いたところで一度離れてる。二回目は23時過ぎで、そのときスミカは連れとはぐれて、壁際で一人で飲んでた。化粧品メーカーの営業で、九州から大阪に転勤してきて、まだ1年目の26歳。
金曜の大阪、曽根崎で一杯入れてから地下の箱へ
大阪には金曜の夜に入った。仕事を夕方で切り上げて新幹線に乗って、西梅田のビジホに荷物を置いたのが20時半。土日は大阪で遊ぶつもりで来てて、予定はまだ一個も入れてない。
梅田は、ミナミとは別の街だと思って歩いてる。勤め帰りの大人が主役で、ミナミのノリのまま入るとまず浮く。梅田の路上で俺がやるのは、短くて誠実な一言だけ。断られたら、笑って下がる。大阪の夜を街ごとに歩き分けたガイドの茶屋町の行も、ほぼこの二文で済ませてる。で、その大人たちが帰り支度を始める時間に、扉を開ける箱がある。
21時過ぎ、曽根崎の裏のおでん屋で、カウンターの端に座ってハイボールを一杯と、大根と玉子。箱の前に一回座って腹に何か入れとくのは、昔からの癖だわ。空きっ腹で爆音の中に入ると、すぐに頭が回らなくなる。

今日は箱。梅田の箱は初めてだから、大根を割る箸がちょっと落ち着かない。笑
東京で箱に入るなら、だいたい六本木になる。相棒と六本木の箱に1時前に入った夜みたいに、向こうは日付が変わってから人が増えていく。梅田も似たようなもんだろうと思ってたら、おでん屋のおかみさんに、あそこは金曜なら22時台から人が来る、と教えられた。
22時の10分前、ビルの地下へ降りる狭い階段を下りた。入口で払ってドリンクチケットを一枚もらって、重い扉を押す。低音が腹に来た。
この夜の箱は、1時間ごとに中身が入れ替わったみたいに変わってった。
| 時間 | フロア | バーカウンター | 声の届き方 |
|---|---|---|---|
| 22時前(入場) | 壁際に立ってる人のほうが多い。真ん中は空いてる | 待たずに頼める | ふつうの声で届く |
| 23時過ぎ | 前から埋まって、真ん中まで人 | 手前は二重に人が並ぶ。奥のバーのほうが空いてる | 耳元に寄らないと届かない |
| 0時を回ったころ | 階段の上まで人がはみ出す | 水を一杯頼むのにも手を挙げて待つ | 真ん中は身振りだけ。フロアの端まで下がれば、耳元でなんとか |
入ってすぐは、音だけがでかくて人の少ない箱だった。真ん中はまだがらんとしてて、みんな壁際でグラスを持って、誰かが最初に踊り出すのを待ってる。

照明が紫。最初の一人になる勇気はない。笑
カップを二つ持ってた子に、名前だけ聞いて離れた
22時ちょうど、バーカウンターで最初のドリンクを受け取った。六本木の夜もそうだったけど、箱で誰かに話しかけるならカウンターの前だと思ってる。フロアの真ん中は音を浴びる場所で、口を動かす場所じゃない。
カウンターの端に、プラスチックのカップを二つ持って立ってる子がいた。片方をときどき口に運んで、もう片方は手に持ったまま、入口のほうを何度も振り返ってる。

それ、二つとも飲むの?
まさか(笑) 片っぽは連れのぶん


連れ、どこ行ったの
ロッカー行ったっきり、帰ってこんと


今の、どこの言葉?
あ、出とった(笑) 九州


九州のどこ
福岡。博多からちょっと外れたとこ


じゃあ、大阪の人ってわけでもないんだ
仕事で来て、まだ一年も経ってないよ


それでも俺より大阪に詳しいじゃん。俺、今日東京から来たばっか
詳しくないよ(笑) 会社と家の往復しかしてないもん

人懐っこい子だった。知らない男に話しかけられて、警戒するより先に笑ってくれる。名前を聞いたら「スミカ」と返ってきて、俺もアキだと名乗った。
アキさん、東京から一人で箱に来たの? すごいね


すごくはない。金曜がヒマだっただけ。笑
連れはまだ戻ってこない。スミカの手の中で、連れのぶんの氷が少しずつ溶けて痩せていく。「じゃあ、楽しんで」とだけ言って、俺はカウンターを離れた。

名前だけもらって退散って、渋いっすね

連れのぶん持って待ってる子の横で粘ってたら、戻ってきた連れが気まずいだろ
名前は聞けた。そのときは、それで十分だった。
そこからの1時間は、きれいに何も起きてない。壁際で踊ってた二人組に話しかけたら、「今日は女子会やねん、ごめんね」と笑って断られた。奥のバーの列で隣になった子には、返事の代わりに会釈を一つもらっただけ。金曜の箱なんて、そういうもんだよな。ドリンクチケットはとっくに使い切って、二杯目は現金で買った。
23時過ぎ、「さっきのスミカちゃんじゃん」
23時を過ぎたあたりで、箱の空気が変わった。フロアの前のほうから人が詰まっていって、気づいたら真ん中まで埋まってる。DJが曲をつなぐたびに、そこにいる全員が同じタイミングで手を上げる。知らない人同士が一個の生き物みたいになっていくこの時間が、俺は昔から好きなんだよ。
奥のバーへ水を買いに行く途中で、壁にもたれてる子が目に入った。カップは一つ。踊ってもいないし、スマホも見てない。

さっきのスミカちゃんじゃん
あ、カップ二つの時の人(笑)


今は一つなんだね
……うん。連れは、あっち

スミカが顎で指したほうを見ると、DJブースの手前で、背の高い男が白いトップスの子に話しかけてた。人の頭が並んでる上に、そいつの頭だけが一個ぶん飛び出してる。

ロッカーからは戻ってきたんだ
戻ってきて、カップ受け取って、そのまんまあっち(笑)

笑ってるのに、そこだけ声が小さかった。この音の中でそれをやられると、耳をかなり近くまで寄せないと拾えない。

一緒に来た人?
会社の先輩。大阪で、いちばんお世話になっとう人


先輩ってだけ?
……だけ、やったらよかったっちゃけどね

普段の俺なら、ここで一回離れてる。連れのことで頭がいっぱいの子の横に知らない男が立ってても、邪魔なだけだから。でもこの夜は、なんでか足が動かなかった。連れの彼のほうを見ないようにして、空になりかけたカップの縁ばっかり見てるスミカの横で、「じゃあ楽しんで」がもう一回言えなかった。

このまま、ここから見てるの?
見とらんよ(笑) 見らんようにしとう


あっち、行ってみる? 三人で話したら、少なくとも今夜どうするかは決まるじゃん
え、アキさんも来ると?


一人で行きにくいなら、付き合う
……来て。一人やと、絶対行けん

下心がゼロだったかと聞かれたら、俺はそこまで綺麗な人間じゃない。ただ、この時に頭にあったのは、この子が今夜をどう終えるのか、のほうだった。何もはっきりしないまま朝まで壁にもたれてる子を、そこに置いて別の子に声をかけに行く気にはなれなかった。
歩き出す前にもう一回DJブースのほうを見たら、飛び出してた頭がもう無かった。白いトップスの子ごと、どこかへ移ってる。
はぐれたら困るけん、LINE交換しとこ

はぐれた子と、はぐれた連れを探しに行く前に、はぐれた時のための連絡先を交換した。順番が完全におかしい。笑
- 西日本・九州エリアの会員が厚い印象。遠征先で重宝した
- 運営20年超の老舗で、サポートと年齢確認がしっかりしてる
- 登録無料+お試しポイントで、まず雰囲気を見られる
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
人の壁を10分かき分けて、階段の踊り場で頼まれたこと

この人混みで、どうやって探すんすか

手がかりは「背が高い」だけな。笑
前を歩いたのは俺で、スミカは俺のシャツの背中を指先でちょっとだけつまんでついてきた。DJブースの前、人がいちばん詰まってる真ん中、奥のバー。曲が変わるたびに人の波が揺れて、そのたびに三歩ぶん押し戻される。背の高い男なんて箱の中に何人もいて、人違いで三回くらい振り返られた。

あの人?
ちがう(笑) あんな金髪やなか

トイレへ降りていく階段の手前で、やっと見つけた。探し始めてから10分。連れの彼は白いトップスの子と並んで手すりにもたれてて、近くで見ると、思ってたよりずっと顔が整ってる。背は俺より頭半分高い。

……イケメンじゃん
やろ(笑)

連れの彼はスミカに気づいて、それから隣の俺に気づいて、眉が一回上がった。白いトップスの子に何か言って、スミカに手招きして、二人で踊り場のほうへ降りていく。俺はその場で壁にもたれて待った。
5分くらいで、スミカだけ戻ってきた。
先輩が、アキさんと二人で話したいって


俺と? なんで
わからん(笑) 行ってくれる?

踊り場は、上よりほんの少しだけ音が遠い。連れの彼は「すんません、急に」と頭を下げて、それから、今日あいつと一緒にいてやってほしいんです、と言った。

……は? 俺に頼むの、それ
連れの彼の話はこうだった。スミカが自分を好きなのは、だいぶ前から分かってた。分かってたけど、その気持ちには応えられない。同じ営業所で毎日顔を合わせるから、どう振る舞えばいいのか分からないまま、ここまで来てしまった。今日も隣にいると何かを期待させそうで、離れて別の子と喋ってた、と。
なんだこいつ、と思った。思ったけど、目の前にあるのは、悪いやつの顔じゃなかった。何か月も同じ職場でどうしていいか分からずにいた人の、困りきった顔だった。

それ、俺から伝えるのは違うよ。本人に、自分の口で言ってあげて
連れの彼は少し黙ってから、「そうですよね」と頷いた。二人で階段を上がって、スミカのところへ戻る。連れの彼がスミカに話してるあいだ、俺は人ひとりぶん離れて立ってた。音楽で、中身は一言も聞こえない。スミカが二回頷いて、短く何か返したのだけが見えた。
最後に連れの彼は、俺のほうへ小さく頭を下げた。白いトップスの子のところには戻らずに、出口へ上がる階段を一人で上っていった。
0時を回って、帰りの話を先にしたのはスミカだった
……知っとったと、ほんとは


うん
知っとって、ついてきたとよ。今日も

「そっか」とだけ返した。ここで俺が言えることは、たぶん一個もない。スミカは手の甲で目元を一回押さえて、それから自分で笑った。
初対面の人の前で、なんしよるっちゃろ、うち(笑)


初対面じゃないでしょ。22時に一回会ってる
それ、ほぼ初対面たい(笑)


どうする? 帰るなら、出口まで一緒に行く
もうちょっとおる。この箱、ずっと来てみたかったけん

フロアの端に戻って、スミカは曲に合わせてほんの少しだけ揺れてた。スミカのカップは二杯目で止まってて、そこから先は奥のバーで水をもらってた。俺も、追加は頼まなかった。
アキさん、さっきからずっと同じ揺れ方(笑)


踊れないんだよ。揺れてるだけ
揺れとうだけなら、うちと一緒やね(笑)

次にスマホを見たら、0時を回ってた。終電、もう無いじゃん。そっちの話をどう切り出そうか考えてたところで、スミカが言った。
あ、うち一人暮らしやけん。タクシーで帰れるとこやし、心配せんでよかよ


家、どのへん?
中津。すぐそこ

帰る足がちゃんとあると分かって、肩の力が抜けた。そこから何曲か、二人とも黙って音の中にいた。
箱を出て地上に上がったら、耳の奥でまだ低音が鳴ってた。大通りまで歩いて、タクシーを待つ列の後ろについた。
……もうちょっと、アキさんとしゃべっときたか


うん
うち、来ん? お茶くらいしか、なかけど

小さい声だった。もう箱の中じゃないのに、耳を寄せないと聞き取れないくらいの。

今日、いろいろあったじゃん。それ込みの勢いだったりしない?
スミカはすぐには答えなかった。列の先頭で一台が客を乗せて出ていって、俺たちの前がひとつ詰まる。
勢いやなかよ。……アキさんやけん、言いよると


わかった。じゃあ、お茶をもらいに行く
中津の部屋は、ワンルームに小さい台所がついた、物の少ない部屋だった。スミカは電気ケトルでお湯を沸かして、棚の缶から茶葉をすくってる。実家のお母さんが荷物の隙間に詰めて送ってくる、八女茶らしい。出てきた湯のみの片方は、底のシールがまだ剥がれてなかった。
それ、お客さん用に買ったっちゃけど、使うの初めて


俺が一人目?
……大阪に来て、一人目(笑)

転勤してきてからの話を、スミカはお茶を淹れ直しながら少しずつした。担当はドラッグストアや化粧品店を回る営業で、最初の何か月かは、連れの彼が運転する社用車の助手席で得意先を覚えた。大阪の道も、昼に入る店も、関西の取引先に冗談を返すコツも、だいたいあの人に教わった。週末に会う友達は、大阪にはまだ一人もいない。土日は九州の友達とビデオ通話をするか、一人で梅田まで歩いて、何も買わずに帰ってくる。
先輩しかおらんかったと。大阪に


そりゃ、好きにもなるよな
なるよね(笑) なったっちゃん


なんで今日、会ったばっかの俺にあの話をしてくれたの
見た目チャラそうやったけど、話したらいい人やった


チャラそうは、よく言われる。笑
よく言われとうなら、もうそうなんよ(笑)

湯のみが空になってから朝までのことは、内緒にしとく。目を覚ましたら、スミカはもう台所に立ってて、またケトルでお湯を沸かしてた。
日曜の夜の一通と、梅田の地下の昼ごはん
土日はそのまま大阪で遊んで、日曜の夜の新幹線で帰った。スミカからは、その晩にLINEが一通だけ来た。
金曜の話、大阪で人にしたの初めてやった。聞いてくれてありがとね


こっちこそ。八女茶、うまかった
それからは、大阪に行く用事ができるたびに、昼を一回空けておくようになった。スミカと会うのはいつも昼で、夜に会ったことはあれから一度もない。
大阪の夜が、いつも箱から始まるわけでもない。京橋の立ち飲みと天満の古い酒場をはしごした夜のほうは、梅田に取ってたホテルの部屋でJメールを開いて、京橋で飲める相手を探してる募集に返事を出したところからだった。
- 西日本・九州エリアの会員が厚い印象。遠征先で重宝した
- 運営20年超の老舗で、サポートと年齢確認がしっかりしてる
- 登録無料+お試しポイントで、まず雰囲気を見られる
18歳未満(高校生を含む)はご利用いただけません。登録には年齢確認が必要です。本コンテンツには広告(PR)が含まれます。
二回目の昼は、梅田の地下街だった。待ち合わせた場所に行ったら、スミカの隣にもう一人立ってた。
同期の子。連れてきても、よかった?


もちろん。どうも、アキです
入社した年が同じで、今は大阪の営業所にいる子。話すようになったのはここ最近らしい。地下の定食屋に三人で並んで日替わりを食べてるあいだ、同期の子は、ほんまにクラブで会うたんですか、と二回聞いてきた。
ほんまよ(笑) さっきから言いよるやん


今、ほんまって言った
うつったと(笑) この子のせい

食べ終わって地下を歩き出したら、スミカと同期の子は並んで俺の前を歩いて、何か言い合っては笑ってた。ときどきスミカが思い出したみたいに振り返って、俺がまだ後ろにいるのを確かめる。
この流れの次に読む記事。
読み終わったあとに動きやすいように、連絡、街での流し方、次の場づくりに近い記事を置いています。